「脱グローバル化」の幻想

私たちは「脱グローバル化」経済の段階の入り口に立っているのだろうか。この表現は流行している。 ドナルド・トランプが合衆国第45代大統領となり、グローバル化のもたらす影響を告発している。6月には、一部は企業の流出移転のために工業が衰え、荒んでしまった多くのイングランドの地域の票によって、Brexit派が優勢となっている。

国民前線(FN)を始めとする現状に抗議的な、極右で保護貿易主義の政党が、ヨーロッパの至るところで、共和党のトランプの成功を、グローバル化の終焉を予告する兆候であると解釈している。もうすぐ我々は、古き良き時代に戻れるだろうと。経済成長が伸び悩んだ期間が続いたために、そもそも世界貿易ははっきりとした衰退にあるのであり、この件は、本日発行の本紙経済版の6から7ページのアンケート調査にもあるとおりである。これが、彼らが「反グローバル化」を確証する兆候なのである。

こんな調子で物事を提示することほど、単純化しすぎるものはない。トランプ氏は、20年前からアメリカやヨーロッパで知られていた現実を利用したのである。グローバル化、つまり関税の縮小・撤廃や資本流動の自由化は、南北半球間の格差を縮小させたのだ。とりわけ主にアジアでは、グローバル化は何億人もの人々をおぞましい貧困から救い出した。その一方では、特に世界の工場となっていた中国への工場移転が進むと、ヨーロッパおよびアメリカの領界に損害を与えた。たいがいの場合は、該当する国家が無関心なままこれが起こった。

しかし、ここで問題となっているのはグローバル化だけではない。地域の雇用が破綻をきたしたのは、少なくとも同様かもしくはそれ以上に、科学技術が革新したためである。地域雇用の流出移転を招いたのは、むしろイデオロギーよりも科学技術の革新なのである。大手系列グループの工業生産は、今日では細分化されて、複数の国家に置かれている。デジタル情報処理の恩恵で絶えず世界中を駆け巡るようになった情報データは、業務が大規模にグローバル化していくことを告げている。この発展を逆戻りするものはいないであろう。グローバル化は、とてもたやすく・広範囲に続いていくであろう。

トランプの当選とBrexitの衝撃によって、北半球の国々は、より対等な競争条件をより貪欲に求めて、南半球の国家に対しておそらくより強硬に交渉するようになる。おそらくトランプ氏は、バラク・オバマが構想した、一つはアジア、もう一つはヨーロッパとの二つの重要な貿易自由化条約を引っ込めて、貿易部門の引き出しにしまい込むだろう。いくつかの業種では、すでに始まっている工場の戻し移転がすごいことになりうる。

しかし、ドナルド・トランプのような現状に抗議的な扇動家たち(tribuns)が売り込んでいる、昔に戻れる、従業員を送り返してやる(?: rapatrier l'emploi)、のようなこういう幻想は、嘘の範疇にある。中国もしくはメキシコからアメリカに輸入ができなくなるような、高関税率の撤廃(?: levée: 引き上げ?)は、貿易戦争を引き起こし、何千万人ものアメリカの雇用を失うようなことになりかねない。これはEU内部でも同じであろう。

ヨーロッパにおいて、グローバル化を最も歓迎する国とは、グローバル化が生み出した病的な過程に対して福祉国家を達成している国家であり、たいがいは北ヨーロッパである。そして、グローバル化に否定的なのは、そういうことに対して迂闊だった国である。破滅となるような結果をもたらしかねない脱グローバル化に対して、空虚な言葉を累ねたり希望を託したりしてるよりは、むしろここで考え直した方がいいのである。
(Le Monde紙 社説 2016年11月15日)