格差が急速に増大し、政治が不安定になる怖れがある

格差が急速に増大し、政治が不安定になる怖れがある

100人余りの経済学者たちによるレポートが、財の格差が持続的に増大していることを明らかとしており、それは先進諸国においても新興国においても同様である。これは、これまでになく正確な分析である。



Occupy Wall Street」「私たちは99%」... 2007年の経済危機以後に生まれた市民社会運動は、再び自分たちの怒りを新たに支え育てていくための議論を見出すことになるであろう。12月14日に刊行された世界の経済格差に関する最初のレポートは、各国の100人余りの経済学者によって「World Wealth and Income Database (WID)」内に集積された作業の成果であり、21世紀の幕開けからの重大な社会・経済学的、政治学的テーマの一つに対して、生々しい光を投げかけている。世界的ヒットとなって250万部以上を売り上げたトマ・ピケティの著作「21世紀の資本」は、世界のいたるところにおけるこのテーマに関する疑問の大きさを明らかにした。

この現象は、これからもしもそれが先進諸国において資料による裏付けを受けるなら、新興諸国においては大したことがない。それらの国々の中には、議論するまでもなく、経済市場が開かれてから200年あまりの偉大な勝ち組だったものがいる。しかし、その国民たちの収入と遺産の格差については多くは知られていない。今回提示された作業の功績は、この任務に取り組んだことである。

現状では、私たちが有する情報は、世界銀行や国連、OECDなどの大きな機構によって行われた、世帯を対象とした届け出調査だけであった。ファクンド・アルヴァレード、ルカ・シャンセ、トマ・ピケティ、エマヌエル・サエ、ガブリエル・ズクマンらが 統括した、WIDの調査員たちのアリのごとく勤勉な作業は、国税庁およびそれに相当する国家機関の情報を補うことであり、これまでそれが行われたことはない。

それは、収入に関する事項において、1980年から2016年と長期にわたり、増え続けている70カ国あまりの国家に関して、今日で最も丹念に調べられた調査である。いくつかの欠落(アフリカ等)や推測は含まれているものの、これによって収入や遺産、それは最富裕層のもののみならず全ての領域が辿るところを検討することが可能となる。

1980から90年代にかけてのリベラル化の大きな波をその起源とするグローバルな発展の向こうには、グローバル化に起因した爆発的な貿易の増加が続き、世界の異なる地域を比較すると極度に不均質な状況、すなわち全く一様でない文化的、政治的な反応の結果が明らかとなる。

技術革新およびそれがもたらす経済的繁栄の避けがたい代償である急速な格差の増大のうちに、私たちが見るべきものは何か、もしくは私たちの社会で引き起こされるであろう経済的、政治的な不均衡に関して、私たちが自らに問いかけるべきものは何か、その例外的に大規模なデータは、始まったばかりの本質的な議論を規定する(?)。ル・モンド紙は、これから3日間にわたり、このテーマに関して、その調査結果、実際の現地取材の内容、その視点を掲載する。WIDの経済学者たちが今回行った仕事の主要な要素は、以下である。


収入の格差は、世界中で広がっている...
地球上のほとんど全ての部分で、収入の格差がこの数十年間で広がっていることが分かった。その推移は、経済学者ブランコ・ミラノヴィッチが普及させ今回の報告で更新された「象のグラフ」(その曲線は(*ラッパのような音を出してる時の)象の頭部と鼻を連想させる)に要約されるであろう。

それによって、1980年からは、世界で最も富裕な1%の人々が収入全体の成長からその27%をせしめており、これに対して地球全体で最も貧しい50%の人々ではそれが12%であることが分かる。こちらの低所得層の収入は、中国を筆頭とした新興国が発展したために、いずれにせよ増加したこととなった。この2つの階層の中間にある個人に関しては、西洋社会では中間階層に相当するが、収入の成長が最も低く、さらに1980年から2016年にかけてその収入は停滞した。世界水準では、格差の進行は2007年から少し落ちたようである。この格差の鈍りは、平均収入が、世界の異なる部分の間でゆっくり収束してきていることの現れである。


...遺産の格差も同様である
格差は、収入の観点のみから評価されるものではない。それは個人に保有された遺産にも左右される。列挙するなら不動産、金融資産、企業相続分である。世界において、この遺産における格差の水準は、20世紀の初頭に見られていたものより20%から30%低い成長のままである。

しかしながら、これは特にアメリカなどの大半の国家で、1980年代から再上昇しており、2014年には最富裕の1%が占有する世帯遺産は39%であり、これは1980年には22%であった。この現象はフランスとイギリスにて顕著であり、これらの国家では収入格差はさほどでもないが、この期間に中産階級が大規模に不動産を入手することが可能であったため、これが差の増大への歯止めとなった。


国家によって非常に不均質な状況
世界の地域が異なると、この図式は対照的なままである。2016年には、上位10%の富裕層に相当する国民所得は、たとえばヨーロッパで37%、中国で41%、北アメリカで47%、インドとブラジルでは55%であった。格差は、国家によって異なるリズムでも増大している。今回の報告の著者たちによれば、これは「格差の進行に対して、体制や公共政策がある役割を果たしている」ことの証拠である。たとえばアメリカとヨーロッパは、貿易自由化が似通った水準であるにもかかわらず、同じ曲線は全くたどっていない。1980年代には、この2つの地域の格差の水準は近かった。しかしアメリカにおいて、格差の水準はより早く大きく拡大した。新興国では、インドと中国も同様に異なる経過をたどっている。インドは、1980年代から中国よりもずっと顕著な格差の増大を示した。


公共財の個人への大規模な移動
1980年代から、大半の国家がより裕福になった。しかし、それらの政府は貧しくなり、これもまた格差増大の原動力の一つである。それを示すために、今回の報告は、公共資本と個人資本の配分を調べている。これらを合計したものが、ある国家が保有する資本全体となる。「1980年代から、ほぼいたるところで公共資本から個人資本への大きな移動がありました」と著者たちは詳細に語る。

終戦から石油ショックまでの輝かしい30年間」では、発展した経済における公共純資産(建造物、土地、公的企業の分配、かつては引き受けた公債)は、国家収入の40%以上の規模であった。1970年代に民営化と公債が嵩んだ影響によって、全てが変わってしまった。その結果として、今日では公共純資産は、アメリカとイギリスではマイナスで、フランス、ドイツ、日本ではかろうじてプラス。ロシアと中国では、1980年代には60-70%の割合であったものが、今日では20-30%である。

同時に、個人純資産は跳ね上がっており、それは1970年代の経済発展国の国民所得の200-350%から、現在では400-700%となっている。「このために、政府が収入を再配分して格差の進行を制限することが制限されている」と報告書は述べる。唯一の例外は、ノルウェーにならってその石油収入を国民の大規模な基金の運営にあてている国々である。


ヨーロッパはその社会規範のおかげで守られている
この報告書では、複数の章で、ヨーロッパは最も裕福な0.001%の人々と最も貧しい50%との差が最も広がっていない地域であることを強調している。それは、第二次大戦後に創始された、広い範囲にわたる再配分とより累進的な税制のシステムによって構成されている社会規範に起因する。しかし、庶民階層に有利な賃金政策と比較的平等な教育システムの恩恵でもある。

この地域でも、1970年からは全く同様に格差が全く少し強まっている。そしてこの状況は、あらゆる領域において最も公平な北欧諸国と、スペインのように2008年に不動産バブルがはじけた影響を常に受けている国々とでは、いまだに対照的である。


アメリカ、裕福な国家で最も格差が大きい
2014年には、最も裕福な「上位1%」のアメリカ人が国民所得の20%に相当し、貧しい50%の人々では12.5%であった。税込みの平均賃金が60%増額したにもかかわらず、その収入は1980年から停滞することとなった。20世紀には、それでもアメリカは古いヨーロッパよりもずっと公平な社会であった。ロナルド・レーガン政権下に始まった規制緩和と減税を求める運動によって、大きな転換が行われた。これ以後、累進課税制度は大幅に縮小され、最低賃金はほとんど凍結されたままで、教育および医療を受けることに対する格差は頂点を極めた。株式配当のような賃金外収入の2000年からの増加が、その格差を増強した。


中東、格差のチャンピオン
中東では、最も裕福な10%が国民所得の60%以上をせしめている。著者たちは、この地域が文化的に比較的均質であることや、西ヨーロッパに匹敵する人口であることを考慮して、この地域を丸ごと全体として扱っている。石油による不労所得が国家間の差を広げていて、湾岸諸国では、化石資源を豊富に有する人々が地域の所得の大半を受け取っているが、彼らは人口の15%に相当するに過ぎない。この湾岸諸国そのものが、多くの特権を受けている国家市民と、増え続けているわずかな賃金をもらう移民労働者との間にある格差がとても大きい。


ロシアでは、鉄のカーテンが終わる
1989年以後、ロシアでは流血による変革が起こり共産主義が衰退した。資産と労働力市場の自由化、大規模な民営化、急速に進行するインフレである。平均収入は増加したが、格差も同様に増大し、少数の支配階層が資源、特に石油の一部をせしめたが、一方で非正規雇用が増加した。

結果: 貧困側の50%が受ける国民所得の部分は、1989年より30%から20%に落ち込み、最も裕福な1%の所得は25%から45%になった。十分なデータがなく慎重になるべきだが、共産主義時代には、基本的な権利の保有、社会階層の流動性、生きがいといった領域での、金銭以外のより定量が困難な大きな格差も伴っていた。


アフリカでは、他の大陸と比較して貧困が進んだ
世界規模での収入収束の過程を免れている地域がある。それはサハラ以南のアフリカで、そこでは政治的危機と経済危機が同時に起こった結果、1980年から2016年にかけての平均給与の増加が、世界全体の平均より3倍遅い。一握りの国家を除けば、アフリカにおける格差のレヴェルを評価するための統計データがない。しかし稀に入手しうるデータでは、これまでの推測よりも大きな意味を持つ不均衡が強調されている。格差は南アフリカにおいて顕著であり、とりわけこれは長い間支配的であったアパルトヘイト制度が残したものである。


もしも何も変わらなければ、この傾向はひどくなるであろう
国家サイドから強い反応をしなければ、これから数世紀の間に格差は拡大し続けるであろう、と経済学者たちは警告する。このまま行けば、2050年には(中国、EU圏内、アメリカにおいて)0.1%の最富裕層の保有する遺産は、中産階級の遺産と同程度にまで増大するであろう。「その代わりに、諸国家がヨーロッパで見られた穏便なカーブを取っていくのであれば、格差も、貧困も同じように減らすことができる」と彼らは断言する。それにはどうすれば良いのか。格差を課税を減ることによって減らすために、より累進的な税制を敷くこと、そして最富裕層が遺産を蓄積する気にならないようにすることを彼らは提案している。しかしまた同様に、より報酬の高い雇用を獲得するためには必須である教育へのアクセスを促進し、医療の分野への投資を増進することによっても。
(LeMonde紙 2017年12月14日)