もう原発のリスクをとる必要はない

もう原発のリスクをとる必要はない

 フクシマから8年がたち、アメリカの安全機関の前会長は教訓が引き出されていないと判断している。

 グレゴリー・ジャクゾーは、2009年から2012年にかけてアメリカの原子力安全機関、原子力規制委員会の会長であった。2011年3月のフクシマの事故の後、彼はこの惨事への日米の対応を調整しており、1月には『Confessions of a Rogue Nuclear Regulator』(Simon & Schuster出版、仏訳未)を出版した。ジャクゾー氏は大学教員でもあって、再生可能エネルギー分野での起業家でもある。

 

フクシマから8年がたちましたが、あなたはこのタイプの事故が再び世界で起こりうるだろうと思いますか。

事故のリスクは常にあります。それを完全に度外視することはできません。安全保障の権威を派遣するときには、すでに知られている欠落について検討するのであって、当然ながら私たちが知らないことについてではないのです。ならばフクシマの事故が示したように、欠落した部分は常にあるのです。しかしながら発電所内の安全性を入念に改善することは可能です。しかし、それが起こる可能性としては非常に小さいのに、そのシナリオに立ち向かうためには高額なコストがかかることを受け入れなければならないのです。

 

アメリカの原発保有数は、フランスを凌いで世界最大ですが、アメリカはこの事故の教訓を引き出していますか。

私にとってそれはとても大きな失望です。あの業界の一部の人間は、それはニツポンの問題であって、アメリカでは問題にならないと断言して、この問題を過小評価しました。しかし、ニツポンで使われている技術はアメリカの技術の影響を受けているのです。フクシマの事故を過小評価する考え方は間違っています。そこから私たちは教訓を引き出さなければならなかったのですよ。米国原子力規制委員会は、非常に迅速に、他国で安全性を改善すべく提案されたものと同様の現実的な勧告をしました。しかし原子力産業は、その実現を妨げるために、連邦議会での強い政治的コネを使ってあらゆることをしました。

 

ヨーロッパの人間は、アプレ・フクシマをしっかりうまくやっているのでしょうか。

ヨーロッパでは、安全管理当局がとても重要な「ストレス・テスト」(事故への耐性試験)をうまく原発に課して、いくつかの有用な措置を実現しています。フランスでは、原子力安全機関とその技術的な協力者IRSNが、世界でも最も優れた査察を行って、独立して決断を行う能力を示しました。

 

あなたは著作のなかで、原子力事故の危険性について強調しています。しかし、数字としてはそれはとてもわずかなものですが。

私がこの仕事を始めたときには原子力に対してこのようには考えてはいなかったのですが、それは私にとって存在してはならない何ものかではなく、規制をしなければならないテクノロジーでした。しかしフクシマが起こってみれば、我々の原子力の取り扱いは良いものではありませんでした。その必要条件は、偶発的事故によるインパクトを敷地そのものの中に限局し、環境汚染が起こり得ないようにすることでなければなりません。その解決法の1つは、原子炉をずっと小さくしてもっと危険がないものとすることでしょうね。しかし、経済的なものが問題となります。つまり、あまり採算が合う選択肢ではないのです。

なによりも、こうした議論はこの15年間で完全に変わってしまいました。今日では、私たちにはCO2を放出せず、原子力よりも安い電力生産手段があるのです。もはやこうしたリスクを採り続ける必要はないのです。

 

再生可能エネルギーの対価は低くはなりますが、それは原子力に対して持続的に電力を生産することが...

それはあまりに単純な論法です。太陽光や風はしっかりと予測が可能で、ここから産生しうるエネルギーもまた同様です。太陽光と同様に、陸上の風と沖合いの風も相互にうまく補い合って、1日のもしくは1週間の電力産生を均します。今日では、再生可能エネルギーは信頼できる技術です。原子力に対しても同じようにそう言えるでしょうか。フクシマの後、ニツポンは原子力発電量を25%から0%にしていました。事故の危険性があるために、原子力はあまり信頼できる技術ではないのです。安全性に問題が生じれば、原子炉は即座に停止できなければなりません。再生可能エネルギーと同じで、原子力にも並行する複数の予備システムが必要となる理由です。

 

原子力を擁護する人たちには、事故による死亡者は、火力発電の数万人の犠牲者に比較すればほんの少数だったと指摘する人々がいます。

このテーマがさほど重要でなければ、そういうことを言っても面白いのですが。フクシマというのは、まさに10万人以上が避難し、2千億ドル(*時価22.1兆円)以上のコストがかかっている事故なのです。今日では、原子力を、CO2を排出しない再生可能エネルギーではなく火力で代用する必要などないわけで、こうした議論は詭弁です。

 

なるほど、しかしドイツのように、原子力を放棄しても火力発電を放棄できておらず、CO2排出を削減することにはなっていない国がありますが。

当たり前ながら現行の原子炉を一朝一夕に閉鎖することはできないのですが、それを是が非でも使い続けようと頑張ってはなりません。火力発電の対価を、化石燃料エネルギーへの依存を制限するようにしっかりと設定していけば、徐々に再生可能エネルギーに置き換えていくことが可能です。ドイツは、フクシマ後に原子力から迅速に撤退することを決定しており、まだ大量の火力発電を抱えてはいますが、そこからの解決策を決定し、信じられない速さで再生可能エネルギーを発展させています。

 

フランスは原子力の引き下げを2035年に延期しているのですが、これはほぼ全ての原子炉の使用期限を延長するということでしょうか。こういう延長はリスクとなるのでは。

そうとは限りません。原発の引き下げがきちんと行われるのなら、それを行う能力が原子力安全機関にあるとすればですが、今日と同じ安全水準を維持することは可能です。しかし何よりもそれは経済的な問題なのです。それには設備の買い替えと高額な工事が必要となり、そのコストは非常に高額です。このコストを減らそうとすれば、安全水準を落とすことになりかねません。

 

アメリカにおける原子力の状況はどうでしょう、ドナルド・トランプから強力な支援を受けていましたが。

アメリカで建設中の4つの原子炉のうち、2つが中止となり、あとの2つは途方もなく高額なものとなっています。このタイプの原子炉が建設されることは、二度とないでしょう。既存の100の原子炉については、その大部分が2030年までに60歳になり、運転許可証の期限が切れます。その半数は20年間の延長を要求することが検討されています。アメリカにおける原子力の分担割合は、(*人為的ではなく)機械的な理由から減少していくだろうということです。

(Le Monde紙 2019年3月12日)