社説 コロナウイルス: 体制を揺るがしている一人の犠牲者

社説

コロナウイルス: 体制を揺るがしている一人の犠牲者

 

 

コロナウイルスとの闘いにとうとう殉教者が出てしまった。公式発表によればリ・ウェンリャン医師が2月7日に武漢の病院で死去した。この34歳の中国人医師は、湖北省の首都にあるセンター病院の医師で、2月1日に警察より「虚偽の噂を流布した」として尋問を受けていた。彼はその2日前にオンライン掲示板にて同僚たちに、このウイルスの危険性は、彼によればSARSのそれに匹敵すると警告していた。公式メディアがかなり言及しているように、この逮捕は、他の7名の医師と同様に、春節の直前に医師団が中国人民を不安にさせないよう黙らせることがその唯一の目的であった。


科学者たちはその3週間以上も前からつぶやいていたのだが、それを当局が認識するためには1月20日を待たなければならなかった。つまり、新しいコロナウイルスがヒト-ヒト間で広がっていたのだ。


そもそもリ医師は、まず1月10日、自分が入院を余儀なくされる12日よりも前にこの疾患の初発症状を提示している。自分たちのミスを認識させられた当局は、あまりに早く正しかったこの医師の名誉を1月28日に回復した。公的メディアは、今回の流行を1月24日まで過小評価していたが、それ以後はシー・ジンピンのいう「悪魔との戦い」への総動員、とりわけ共産党が総動員していることを強調すべく、急いで仕事をした。しかし、それはあまりに遅く、その3週間で数百名の人命が失われ中国人民は怒りをあらわにしている。


リー医師の死はにわかに政治的な次元を帯びた。彼の死によって蔓延っていた抗議が共鳴していった。数百万人の中国人民が、SNSでその感情、フラストレーションや批判をぶちまけた。


それらは地方当局に向かうものだったが、そのお定まりの検閲や隠蔽に支えられた体制にも向けられている。たしかに中央当局は、この医師の死去をめぐって世論が掻き立てた疑問に対して「徹底した調査」を行うとして、2018年に新設された公務員を監督する上級機関である国家監視委員会チームを武漢に送ると発表した。この時期を逸した操作によって、何名かの官僚への見せしめの懲罰が行われた。しかしながら当局の不安の徴候なのか、サイバースペースを管理する当局は、新たにSNSの統制を強化する指示もまた公開した。中国の大手インターネットグループは、これ以後「特別監視」の対象となった。コロナウイルスの議論をさらに監視するよう命令が下されたが、これ以外にも共産党のようなデリケートな話題に関する議論も同様だった。


5日から中国の主要なSNSの一つWechatは、「デマを拡散した」との告発を受けた多くのアカウントを閉鎖した。SNSは中国人の日常生活で中心的な役割を占めるため、閉鎖は検閲を超えて半ば社会的な死に相当する。この弾圧が意味することは、中国政府に対して驚くほど寛容なWHOが何を言っても、中国はコロナウイルスついて一切の「透明性」を示さない、示すつもりもないということである。SARSとか、さらには2008年の地震で学校校舎の粗悪な建築基準をめぐる批判や内部反省の高まったことなどの教訓からは何も学ばなかったかのように。それもそのはずで、ある領域がデリケートであれば、そしてほとんどすべてがそうなのだが、共産党は情報の占有を掌握し続けようとする。前任者たちよりもシー・ジンピンの元ではさらに一層そうであり、彼は共産党をこの駆け引きの中心に据えている


中国全土で医師たちが「デマの拡散」に対する「警告」を受け続けている。これは、関心を抱いている人々、中国人民のみならず国際社会にとっても悪い知らせである。10日間で病院を作り上げて感染の流行と闘う、それは立派だ。表現の自由を促進し、警察よりももっと医師たちを信頼して、その出現を防ぐことの方がさらにずっと立派である。それはまた不可欠でもある。中国社会の大部分が求めているこの変化が起こらない限り、ペキンの政権は世界の保健衛生に貢献していると称してはいるものの、そうとは言えなくなるだろう。報道の自由がなければ持続可能な公衆衛生はない。中国はそのような途をたどらない。

(Le Monde紙社説 2020年2月8日)