オミクロン株は世界で最も使用されているいくつかのCOVIDワクチンの裏をかいている

オミクロン株は世界で最も使用されているいくつかのCOVIDワクチンの裏をかいている

不活化ウイルスワクチンは、感染をブロックする抗体を、あったとしてもほとんど引き出さないが、しかしそれでも病態の重症化には防止効果があるかもしれない。

世界で最も広く使用されているCovid-19ワクチンには、急速に拡大しているオミクロン変異株感染の予防効果がほとんど、もしくは全くないことを、検査結果のエヴィデンスが示唆している。

 

不活化ウイルスワクチンは、感染を起こせないように化学的に処理されたSARS-CoV-2ウイルス粒子を含んでいる。安定して比較的容易に作成できるため、こういったワクチンは

中国の世界規模のワクチン外交の一部として広く配給されてきており、このため多くの国々で好まれる接種となっている。しかし多くの実験が、その足元をオミクロン株が一貫してふらつかせていることを示している。

2回の接種を受ける人々の多くが、オミクロン株の伝染を阻止する免疫分子を形成することができない。3回目の接種の後でも、細胞をウイルス感染から強力に守る「中和抗体」の個体での水準は低いままである傾向がある。

この結果のために、多くの科学者や公衆衛生の研究者がCovid-19に対するグローバルな闘いでの不活化ワクチンの役割を再評価することとなっている。「現段階で、わたしたちは考え方を刷新し、ワクチン戦略を修正しなければなりません」と、ストックホルムのカロリンスカヤ研究所の臨床免疫学者Qiang Pan-Hammarströmは言う。

供給された何十億本

不活化ワクチンは、昨年は世界規模でのワクチン普及キャンペーンの手段であった。不活化ワクチンには、中国のシノヴァック社とシノファーム社が作成したものが含まれており、ロンドンのデータ追跡組織Airfinityが蓄積した数値によれば、この2つは110億回のCovid-19ワクチンの接種のうち、およそ50億接種分をしめている。インドのCovaxin、イランのCOVIran Barekat、カザフスタンのQazVacなどの不活化ワクチン接種も、2億回分以上が提供されている。

こういった製品は、今でもCovid-19による入院や死亡を防止するにあたって決定的に重要である。そしてそれでもなお、未接種の個体群に免疫を惹起するという貴重な機能を与えることが可能である。

しかし、不活化ワクチンは、オミクロン株に対してはお手上げかもしれないという初期の兆候が12月に登場した。香港の研究者が、北京に本社のある企業シノヴァックが作成したコロナウイルスワクチンを2回接種した25名の血液を解析した。この新規変異株に対する中和抗体が検出できたヒトは1人もおらず、被験者の全員がオミクロン株に対して高度に脆弱である可能性が出てきた。

シノヴァック社は、同社のワクチン接種を受けた20名のうち、7名の検査でオミクロン株を中和できる抗体が陽性だったとする内部データを強調して、この結果に異論をとなえた。インドのBharat Biotech社が作成したCovaxinや北京の国葯集団シノファームが作成したBBIBP-CorV3を免疫した人々が参加している他の研究でも、不活化ワクチンはオミクロン株に対してある程度の有効性も保有するが、インドのファリダバードのTranslational Health Science and Technology Instituteの研究者たちは、その研究において免疫反応は次善のものにとどまるとの記載を加えている。Covaxinに関する検討は、まだ査読を受けていない。

免疫の追加トッピング

不活化ワクチンの3回目接種は、多くの個体での中和活性の回復を助ける。中国のShanghai Jiao Tong University 医学部の研究者による292名の研究では、たとえばBBIBP-CorVの初期コース後の8-9ヶ月目に検討された辛うじて8名において、オミクロン株に対する中和抗体が認められた。同ワクチンを再度接種すると、その数値は2284名に上昇した。この検討はまだ査読を受けていない。

一人ひとりの血中中和抗体の水準は低いままであった。しかし、サンティアゴのPontifical Catholic University of Chileの分子ウイルス学者ラファエル・メディナが指摘するように、「免疫反応には他にも役割を果たしている部分があります。」T細胞は感染した細胞を破壊し、B細胞は過去の感染症を記憶していて将来の免疫反応を強化する、そして結合抗体はウイルス制御に関与する。

12月に発表されたあるプレプリントでは、マサチューセッツ州ケンブリッジのMITとハーヴァード大学のRagon研究所の免疫学者ガリット・アルターが主導しているが、メディナとその共著者たちは、CoronaVacで免疫された人々には、オミクロン株にも結合し、感染細胞の貪食にあたって免疫系細胞を補助するような、中和抗体ではない抗体が維持されていることを示した。

守勢に回っている

そういった種類の結果は、不活化ワクチンを受けた人々が必ずしもオミクロン株感染からは守られていなくても、それでもこの変異株が引き起こすCovid-19による最悪な蹂躙は回避されるに違いないということを示している、とアンカラのハジェッテペ大学医学部の感染症専門家Murat Akovaは言う。

全く同様に、ワクチンの追加接種は、現在切望されている免疫のある種の保険になりうるだろう。パン-ハマーストレームと彼女の同僚たちは、不活化ワクチン接種2回後にmRNAワクチンを1回追加投与すると、結合抗体、メモリーB細胞、T細胞の水準を上がることを発見した。また、中国とUAEからの検体の検討では、不活化ワクチンの3回目接種よりも、タンパク質ベースのブースターの方が中和抗体の数値を上げることになると示している。これらの結果の多くは、まだ査読を受けていないが。

ブースター接種2回?

しかし、異なるタイプのワクチンによるブースター接種を1回受けても、オミクロン株を抑制するには不十分かもしれない、とコネチカット州ニューヘブンにあるエール大学医学部のウイルス免疫学者アキコ・イワサキは警告する。

イワサキと共著者たちはCoronaVacを2回、その後にmRNA のブースター接種を受けた101名の検体を検討した。ブースト接種の前には、検出可能なオミクロン株の中和を示している検体はなかった。その後には、解析した検体の80%に相当のオミクロン阻止活性がみられた。しかし、そのオミクロン中和能をもつ抗体の量は、こちらのグループの方が、mRNAワクチン接種を2回受けたままブースター接種を受けていない別の集団に比較してたいして高かったわけでもない。この研究もまだ査読を受けていない。

オミクロン変異株が出現するまでは、イワサキは不活化ワクチン接種を1回受けた人たちに対してはmRNAワクチンのブースター接種を1回受けることを主張していた。「私たちは、この戦略がいかに素晴らしいか本当に賞賛していました」「するとそこで、ドッカーン、オミクロン株が襲った」と彼女は言う。今では彼女は、こうした人々にはおそらく追加接種が2回必要だと考えている。

「変異株が登場することでクリアバーが上がり続けています」とイワサキは言う。「私たちはずっと追いつこうとしているのです。」

(Nature 誌601,311  2022年1月13日)