マクロンによれば、首相官邸に入る人物は、右翼を不安にさせることなく左翼を丸め込めるだろう

 

人物像

度を越した「テクノクラート」、あまり「政治的」ではなく、「冷酷」すぎる。長い間、首相官邸に入る本命の1人とされてきたエリザベト・ボルヌは、424日にエマニュエル・マクロンが再選されてから、こういうあからさまな噂の状況の中で、週を追うごとに自らの名前が勢いを失うのを見ていた。この労働大臣でマクロン支持者の左翼を荷う代表が、516日に最終的に首相に任命されると、こういう憶測はほとんど引いていったようだ。その勝利に先立つ3週間以上前、大統領は自らを「新たな国民」によって「新たな任務」のために選ばれた「新たな大統領」であるとしているが、それゆえ与党内ではよく知られていた1人の女性を選んだのだ。

 

確かにエリザベト・ボルヌは、その人柄でちょっとした革命を体現している。彼女は、エディット・クレソンが1991年から1992年まで短期間就任して以来、第五共和政のもとでこのような要職についた唯一の女性である。この首相官邸の住人は、彼女の前住者ジャン・カステクスとの職権移譲にあたって、自らの任命を、全ての少女たちに「夢を叶えなさい」と呼びかけることに捧げることだと強調することを欠かさなかった。

 

「仕事の鬼」

しかし、ボルヌ女史の就任は、与党の一部からボルヌのBのプランB などともいわれたように、批判もさほど引き起こさず、ただし熱狂させることもない、リスクがない選択肢に相当する。大統領府の情報筋によれば、マクロン大統領が再選された夜から、彼の頭にはこの「果敢な」女性の名前が筆頭にあって、彼女は実業界をよく知り、偉大な「国家の文化」への慧眼を持っている。その人選の公表を、彼もまたずっと待っていたのなら、それは全く単純にこの国家が「民主主義の呼吸」をする時間を与えるためであった。もっとも、ヴェロニク・べダグからカトリーヌ・ヴォートランをへてヴァレリィ・ラボートに至る、彼を鼻先で拒絶したり、もしくは彼の支持者たちのなかに排斥運動を引き起こしたような他の人物たちの情勢を探るためだったのでなければだが。

 

「何も変えないためにすっかり変えること。ビジョンも展望もなく、3週間もぐだぐだと言いながら少しずつその手はずを整えた。エリザベト・ボルヌを任命して、同じメンバーで再始動した」と共和党(LR)の総裁クリスティアン・ジャコブは皮肉を言う。

 

彼女は61歳のエコール・ポリテクニーク出身者であり、骨を折られていると評されるフランスをぞんざいに扱うためにいるのではない。薬剤師を母にもち、11歳で父親を亡くしたこの娘は、マクロン大統領が公然と探し求めていた資質を備えている。右翼を不安にさせることなく左翼を丸め込めるということである。共和党の大統領選前候補者ヴァレリィ・ペクレスは、「言うまでもなく彼女には、我が国の2人目の女性首相になるために必要とされるコミットメントの過程があります。彼女がフランスにとって最良のものであって欲しい」と高く評価している。パリ市長アンヌ・イダルゴは、2015年にリベラシオン紙で、「卓越した、素晴らしい、人間らしい娘さん(une fille)」で「信じられないほどの仕事の鬼」であると語っている。

 

ライオネル・ジョスパンの、特にその首相時代の顧問であり、セゴレーヌ・ロワイアルの環境大臣官房の副長官だったこの60代の女性は、「共和国前進」と小政党「Territoires de progrès」の党員で、これは与党の右翼サイドに位置する。「労働によって各自が自由になることを支援すること、それが左翼のもつ1つの価値です」と彼女は202112月にル・フィガロ紙で述べており、「社会民主主義は今でも生きていて、それを支えるのが大統領です」と言っている。

 

ポワトー・シャラント圏の知事であった彼女は、おそらくテクノクラートである。当選歴がない彼女は、612日と19日の国会議員選挙で、カルヴァドス県の立候補者として初めて普通選挙に臨むこととなる。身近なある人物の前で、この女性は、この数ヶ月間大臣として接しってこなければならなかった中央政府の長官たちの資質には、もうほとんど「驚かない」と言っている。

 

パリ交通公団の総裁だった彼女は、絶大とされる前幹事長マルク・ジロームに躊躇せず何度もたてついた。大統領の側近たちの間で、世論を導く能力によってその資質が賞賛されたこの「信じられないほどの勤勉者」に、専門分野で優位に立てなかった大物たちである。実際にこの新たな首相は、フランス国民にはその痩せこけた顔も、以前愛煙家だったその低い声も知られていなかったとしても、政府で5年間を過ごしているのである。

 

彼女は国立土木学校を卒業した技術者で、エマニュエル・マクロン2017年に当選してすぐ運輸大臣に任命され、その2年後に環境移行大臣に昇進、その後2020年に労働大臣の地位を手に入れた。大統領の側近たちが繰り返すように、首相に従事するにあたって求められる、今日彼女があらゆる事例をチェックできるようになった経歴である。実際に、エマニュエル・マクロンが自ら語ったところによれば、彼はむしろ「社会問題、環境問題、製造業の問題」を形にできる行政の長を要望していた。エリザベト・ボルヌは環境計画の面倒をみるのであろう。彼女は、改良型EPR原子炉(EPR2)を少なくとも6基、建設を始めるという大統領公約をなんとかしなければならないだろう。彼女は、この型式の原子炉がその領域の規約を守れるのかどうか危ぶんでいて、廃棄物の問題が討論会で過小評価されていると懸念しているのに。

 

ボルヌ女史は、その5年任期のうちにフランス国鉄と失業保険の改革を推し進めなければならないのだが、しかし大統領府としては社会を鎮静化させたいこの時期に、マクロン支持者のなかには自分たちの改革の意図について迷う者もいる。「マクロンは、与党の党首のみならず、首相を政府の行動のコーディネーターとすることで、第五共和制の制度的ロジックを変えていくことを容認している」と支持者の1人は指摘する。「すでにカステクスがそうだったのだが、彼はしっかり機能してCovidは乗り切ったけど、改革を行うようには働いたのか。」この質問は与党の政治運営にも適用されて、それが噴出するだろうと予想する人たちもいる。前回の5年任期の始め頃には、ボルヌ女史はあまり国会議員たちを登用しなかった大臣の1人とされていた。

 

この新たな首相は、強く待望されている年金改革に取り掛からなければならないだろう。彼女は個人的に、定年の法的年齢を延期するという展望を先ごろ正当化しており、エマニュエル・マクロンはこれを65歳に設定したい。「あまり長く働かないなら、私たちの現在の同胞たち以上に広範な厚生制度を持つことはできない」と彼女は考えており、以上のような課題を始めるにあたって「長引かせてもしょうがない」とも言う。労働組合は、彼女がよく「責任を負わせる」と言っている機関であり、その彼女との関係は注意深く吟味されるだろう。CFDTの事務総長であるローラン・ベルジェは、彼女との関係を「ギクシャクしている」と判断している。しかしながら16日に、政府のトップである彼女は、エマニュエル・マクロンが希望する「新たな手法」に沿って「公的な政策は対話のうちに築き上げられなければならない」と断言している。

 

「社会的虐待」

彼女の新たな官房長官となったオーレリエン・ルソーは、イル・ド・フランス圏の地域保健機関の長官を務めており、彼はベルトラン・ドラノェ時代のパリ市役所で彼女と会っていて、社会問題に精通している。彼はマニュエル・ヴァルス官房副長官だったため、首相官邸をよく知っている。

 

その温厚さゆえにあまり知られていないこの女性の横顔は、急進的なサヨクだらけの中で軋んでいる。ジャン=リュック・メランションは、彼女の任命の発表に対して、「100万名の失業者の支給金の値下げだの、ガスの統制料金の抑制だの、原子力離脱の10年間の延期だの、国鉄とパリ交通局との競合に対する方策だの。ましてや65歳での定年制。新たに始まる社会的虐待の時期に号令して、前進せよだ!」と攻撃した。エリザベト・ボルヌが労働省にやってきた時、彼女の前任者ムリエル・ペニコーの官房は、こぞって彼女の側にとどまることを拒否した。協働者たちからそのやり方が「乱暴だ」だと判断されていたのだ。彼女の支持者たちは、「現金」を口にしてその意図を隠蔽しない女性の誠実さの代償なのだ、と言う。一方ではいささかの温厚さも少し見せる時代が、おそらく来たのだ。