アベ・シンゾウは、日本のナショナリズムの高まりを懸念する同盟諸国を安心させたい。

5月4日に来仏した日本国首相アベ・シンゾウは、中国政府から日本帝国軍の残虐行為を否定し、日本を軍国化しようとしているとして非難されており、その歴史修正主義的な声明により、中国のみならず韓国でも強い抗議を呼んだ。2013年12月の靖国神社参拝は状況をさらに悪化させた。19世紀の半ばから祖国のために死んだ240万人の御霊を顕彰し、そのうち第二次大戦終結後に東京国際裁判によって有罪とされた14名の戦犯も合祀されているのがこの施設である。

アベ氏とその取り巻きの発言(出現?)は、周辺諸国からは過去を免罪しようとしていると受け取られ、東アジアの緊張を高めるものとして同盟国アメリカをも苛立たせ、遠くヨーロッパまで動揺させ始めた。日本の同盟国は、この唐突に表明された歴史修正主義の意味についていずれも疑問を感じている。平和主義思想の第一人者となり、半世紀のうちに世界第二の、そして現在は第三位の経済力となった国家・ドイツとは対照的に、唐突に日本で表明されたこの歴史修正主義の意味について同盟諸国は疑問を感じている。

「言っても聞いてもらえない」
だからといって、日本人がとりわけてナショナリストなわけでも、またかなり冷めているわけでもない。軍国主義になりかけているのか?軍国主義には日本はまだ程遠く、アメリカとの同盟関係による首かせがあるため、日本はワシントンから独立しては振る舞えない。アベ氏は危険な過去の亡霊でも、選挙票の確保のためにナショナリズムを利用するご都合主義者でもない。戦後を終わらせ、自らの国に誇りを取り戻すことを使命として与えられていると信じる、右翼の人物なのである。その信念によって判断ミスがもたらされる愛国者である。彼は、自分は正しい道にある、自分の言動が外国に与える影響を考慮してはいけないと思い込まされており、これが彼を最も好意的な仲間からも孤立させている。靖国参拝がなぜ行われたのか、彼の側近は「言っても総理は聞いてくれない」と強調する。

アベ氏は、右翼・自由民主党(自民党:保守党)に所属し、二度の総選挙で連勝した自民党の安定過半数は、2016年まで揺るがない。自民党の支持率は上がりつつある。しかし、自民党に一斉に投票した(とはいえ棄権率も高かった)日本人が、アベ氏の政策に全体に好意的なのかどうか、彼は確信が持てない。ある調査では、自民党に好意的でない層は、武器の海外輸出の規制緩和、集団的防衛体制への日本の参加、平和憲法の改訂や原発の再稼働などの記憶にとどめておくべき質問に対する見解に意義を唱えている。

衰退感
自民党とアベ氏の支持率は、いくつかの要因から説明される。20年間のデフレ、6年間にわたる首相の頻回な交代、政権交代を果たした民主党(左翼)は苦い失望感を招いて今や壊滅状態、覇権への野心をもち日本の衰退感を助長する中国の輩(une)、そして16000人が死亡した2011年3月11日の津波と、それに続くチェルノブイリ以来最悪となった原子力災害などの国難。アベ氏が政権についた2012年は、日本は厳しい自信喪失の危機を経験していた。彼の意欲先行の政治(「日本は復活している」)と「アベノミックス(!)」(大胆な金融緩和と通貨政策の緩和)は、この国を未来への行程に引き戻したかと思われた。

一部の若いエリート政治家と官僚は、アベ氏の救世主待望論を必ずしも共有しておらず、20年の衰退ののちに頭をもたげる日本は、彼らにとって悪いものではない。しかし、他の人々にとっては、戦後を終わらせることは、1945年の敗戦から国家を作り上げてきた理想を危険に脇に追いやることでもある。

無邪気で懲りない保守主義
アベ氏は政治家一族の後継者である。軍国主義時代の大臣であり、戦犯としてアメリカ人により逮捕され、右翼を再形成し中国共産主義者を封じることを代償として審理を受けずに釈放されたキシ・ノブスケ(1896-1987)の孫である。キシ氏は、迷うことなく親米派の首相となり、国民の強い抗議をものともせず1960年に日米安保条約をさらに強固なものとするようになる。外務大臣であった父親、アベ・シンタロウの秘書を務めたあと、自民党がぐらつき始めた1990年代の初めにアベ青年は政治の道を歩み始めた。当時彼は、レーガンサッチャーの賛同者であり、無邪気で懲りない保護主義を称賛し、日本の領土拡大の被害者たちへの謝罪を顧慮することを拒む、いわば「青年トルコ人」の一部であった。

59歳になるアベ・シンゾウは、戦中戦後を知らない世代に属する。政権を担当していた自民党は、1970年までは強い社会主義野党と妥協せざるを得なかったにも関わらず、今日ではライバルのいないゲームの支配者である。右翼の長老は、確かに国内ではいつも声が大きかったが、歴史修正主義には飛び出さない限度があるということを知っていた。国家の首脳の存在によって、インターネットに垂れ流される反中、反韓の非難が助長されるという新右翼は、この場合はこれに該当しない。

エスカレートする国家主義
アベ氏の歴史修正主義は、しかしながら背景に政治思想がないわけではない。彼は、神道派(軍国時代には国家宗教となったアニミズム崇拝)の有力な圧力団体を満足させている。首相は、神道政治連盟(268名が選出されている)を主宰し、権力闘争においてはこれが彼を支えた。その恩義に靖国神社に参拝することで敬意を表したのだとしても、彼は国家主義の傾向を弱めていくであろうか。それは分からない。彼は、復興の原動力は愛国主義であり、同様に理解できないことではあるが国家の意識を作り直さなければならないと確信している。

アベ氏の愛国主義は、結局この地域の国家主義エスカレートさせるきっかけであった。確かにこの愛国主義は、自らの感情を表明したいという日本の高揚を待たなかったのであるが、しかし特に中国で愛国主義が信頼を失ったマオイズムの代用品となったごとく、制御することが難しくなりうる。
(Philipe Pons, Le Monde紙 2014年5月5日)