川端康成の手のひら

とりわけ「眠れる美女」や「山の音」(いずれも1970年と1969年にアルバン・ミシェルにより刊行)が知られているが、川端康成(1899-1972)の芸術性が最も際立つのはおそらく彼の短編である。1968年にノーベル文学賞を受賞した川端は、生涯にわたり「掌の小説」と呼ぶ作品を書いており、これまで未刊であったこの小編は1952年から1960年にかけて発表された 6つの小説により構成される。この作品集のタイトルともなった最初の作品「富士の初雪」では、以前恋愛関係にあり破局した二人が数年後に再開し、一緒に箱根に向かう。簡潔な語り口は、ほとんど数行で表現されながらそのまま人間の感情の機微にあふれている。

まさに川端康成を引きつけていたのは、再び雪が降ることや木々が色づくこと、雨の雫の音などそれがありふれたものであっても、季節の移り変わりは感じやすい人間の心情に寄り添うことである。流れては繰り返す時は過去の追想の手がかりともなり、また川端は過ぎ去ったと思い込んでいた過去の幻影を絶え間なく呼び起こす。この文体と構成がこの小編の深みとなっている。
Première neige sur le mont Fuji (Fuji no hatsuyuki), de Yasunari Kawabata, traduit du japonais par Cécile Sakai, Albin Michel, 176 p., 16 €.
(Le Monde紙 LE MONDE DES LIVRES 2014年10月15日)