(要約: abstract)
研究にあたっての設問
低線量の電離放射線被曝は固形癌のリスク増加と関連しているのであろうか。
方法
このコホート研究では、フランス、イギリス、アメリカ合衆国において、電離放射線への外部被曝に関する詳細なモニターデータを有する308297名の原子力産業労働者と死亡届との関連が検討された。癌の死亡率に対する、被曝用量のグレイ(Gy)あたりの過剰相対比率が算出された。経過調査には延べ年数820万人が確保された。経過調査が終わるにあたって、66,632名の死亡が確認され、うち17,957名が固形癌による死亡であった。
研究から得られた回答とその限界
今回の結果より、放射線被曝量の増加と癌死亡率との間には線形増加が疑われた。被曝労働者における大腸での累計被曝線量の平均値は、20.9 mGy (中央値 4.1 mGy)と算定された。血液系腫瘍を除く全ての癌の推定死亡率は、経過期間として10年間をおいて、累積被曝量とともに48 % /Gy (90%信頼区間20%から70%)増加した。同様の相関関係は全固形癌(47% (信頼区間18%から79%))でもみられ、いずれの国においても同様にみられた。0-100 mGyの被曝域で算出された関連は、全被曝域にわたって得られたものと重要さは同等であったが、その厳密性はより低かった。喫煙と業務上のアスベスト曝露は強い混乱因子(confounder)であるが、肺癌および悪性胸膜腫を除外しても、得られた相関性には影響がなかった。使用した放射線線量計の性能による影響を明確にすべくかなりの努力をしたが、測定エラーの可能性は残った。
今回の研究から得られたこと
この研究により、長期間の電離放射線に対する低線量被曝と固形癌死亡率との直接推定値が得られた。高線量率の被曝は、低線量に比較してより危険ではあるが、原子力産業労働者における被曝線量単位あたりの癌のリスクは、日本の原爆生存者の調査における推定値と同じであった。長期放射線被曝に関連した癌のリスクを定量化することは、放射線防御の基準を強化するにあたって有用でありうる。
(British Medical Journal誌 2015年 351巻 h5359)