周辺地域の脅威を背景とした総選挙

周辺地域の脅威を背景とした総選挙


この数週間に2発のミサイルが日本上空を経由して太平洋に沈み、北朝鮮政府が罵倒しているにもかかわらず、日本人は北朝鮮の隣人のこの陰謀措置には動揺しないようだ。この脅威は新たなものではないが、これまでにはない規模の意味合いを帯びている。日本人が懸念しているのは、キム・ジョンウンではなくむしろドナルド・トランプの行動が予測できないことである。

国民のこの心配を巧みに利用して、首相 アベ・シンゾーは9月25日に繰上げ選挙を召集した。これは何よりも、彼がこの5年間掌握してきた権力を維持し、「国難」と彼が呼ぶ、日本が直面しているらしいものに立ち向かえる力強い人物として振る舞うことを意図している。「国難」と?アメリカやヨーロッパでありふれている不穏な動乱に照らせば、日本など安らぎの場のようなものだ。おそらく平和過ぎるくらいだ。アベ陣営である自由民主党は、世論調査では首位にある。彼は自らを、20年間低調だった経済成長からこの国が脱するための公的経済振興政策を、継承していくものであるとした。

アベ・シンゾーは、世論に不満があっても投票で棄権してそれを表明するだけで、世論が振るわないことを利用している。新たな陣営である東京都知事 コイケ・ユリコの希望の党は、浮動票の不満、社会不安、世論の一部を取り込もうとするだろう。26日の実業界の日刊紙ニッケイは、アベ氏の称する「国難」は、こういう「政界の液状化」にありそうだと表現している。国際的な舞台では世界第3位に位置する経済国でありながら、日本が困難な状況におかれているのはおそらくこれと関係している。

「日本は帰ってきた」、アベ氏は2012年の政権復帰でこうはっきりと言っていた。その3年後には「積極的平和主義(*先攻的平和主義)」という新たなコピーで、この国の軍事力を海外でより大規模に展開することを正当化した。それ以後のアベ氏の意思は、とりわけドナルド・トランプアメリカにさらに追随することとなって現れた。首相は、アメリカの北朝鮮に関する解決策についてコメントすることを慎重に避けてきたが、しかしながらそこから一線を画しているわけではない。彼のこの追随主義のため、日本はあまり聞き入れてもらえない、おミソ扱い(position subalterne)のままである。日本政府は、北朝鮮と中国の問題に関して、本来のふさわしいイニシアチヴを取っていない。短かったパク・クネ大統領との蜜月も終わり、その後は韓国との関係もほとんど改善していない。

クリル(*千島)列島4島の主権問題に妥協点を見いだすためのロシアに対する努力では、彼は成果を上げていない。ドナルド・トランプが当選し、彼に祝意を伝えるべく最初にアメリカへ赴いた首脳、アベ・シンゾーは、アメリカ政府への追随が、日本のこの地域におけるイニシアチヴを制限することを無視するフリをしている。しかしながらアメリカ大統領の好戦的な荒振りをなだめてくれるものもなく、彼への追随は近隣諸国(韓国と中国)に比して日本を不安定としかねない。

今回の危機によって世論の安全保障への不安が増大しており、この世論がアベ氏の抱く究極の野望にとって好都合となっている。つまり、第二次大戦直後にこの国が引き受けた平和憲法の改定である。それが、振るわない日本の治療薬だというのか?
(Le Monde紙社説 2017年9月26日)