核軍備撤廃へのノーベル平和賞

核軍備撤廃へのノーベル平和賞

ノルウェーの委員会は、核兵器禁止条約を主導した功績に対してICANへの授賞を決めた。


ニューヨークの国連総会において9月20日核兵器禁止条約の批准が始まったが、それがアメリカ大統領 ドナルド・トランプが「北朝鮮を焼き尽くす」と脅迫する煽動的な発言の翌日であったことは象徴的である。

国連加盟192カ国中122カ国からの承認を受けたこの条文は、2007年に始まった核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の長い闘いの成果であり、これは95ヶ国で活動する500あまりのNGOの連合体で、10月6日にノーベル平和賞の知らせを受けた。

今回の審査委員会の判断理由として、ノルウェーノーベル賞委員会会長 ベリト・レイス=アンデルセンは、「私たちは、核兵器が使用されるリスクが未だかつてなく高まった世界に住んでいるのです」と説明する。

その目的は、アメリカ政府を挑発することで北朝鮮が躍進し、北東アジアにおける緊張が高まる中で、核兵器廃絶の努力を促進することにある。中東においても、イランの核兵器保有プログラムを10年間にわたって監視下に置いてきた協定を、アメリカ大統領が再び問題にしかねないように。

ICANの事務総長 ベアトリス・フィンは、「ドナルド・トランプが当選したが、彼は核兵器の使用を自分だけに認めているのだと多くの人々が考え、懸念しがちである」とし、「諸国家に今すぐ核兵器を禁止するよう」呼びかけた。

この条約は、50ヶ国で批准されることによって発効する。これが適用されるのは、署名・批准を行った国家のみである。10ページにわたるその条文は、核兵器国際法を逸脱していることを問題としている。それは1972年から生物兵器が、1993年から化学兵器が受けている措置である。


核兵器への恐怖の均衡
政治的な、また同様に倫理的なプロトコルに基づいて、核兵器が「人道的な次元において壊滅的な結果」をもたらすとあらためて指摘することによって、この条約は「いかなる状況においても核兵器の開発、実験、生産、取得、所有とそれを貯め込むこと」を禁じている。

ICANの闘いは、オーストリア、ブラジル、メキシコ、南アフリカアイルランドといった国々に受け継がれている。この条約は、1年間かけて起草され、採択された。その期間が非常に短いのは、国連安全保障理事会常任理事会で核を保有する5大国とさらに4ヶ国(イスラエル、インド、パキスタン北朝鮮)が審議をボイコットしたためである。

アメリカの国連大使 ニッキ・ハレイは、この交渉の最終段階がまさに始まるにあたって、「自分の家族には何よりも核兵器のない世界を望むが、しかし我々は現実主義者でければならない。北朝鮮核兵器の禁止を受け入れるなどと信じる人がいるかね」と、フランス、イギリスの代表側に向かって言い放った。その時フランスの外交官は、「問題は、核兵器廃絶が、倫理的基盤に基づいて即座になされなければならないものか、もしくは国際的な安全保障という至上命令を重視した、段階的かつ協議されたプロセスに相当するのかなのである」と総括している。

NATO加盟国は、いずれもこの条約への投票を棄権している。唯一の被爆国日本も、アメリカの核の傘の恩恵を受ける他の国々と同様である。「1928年に締結されたブリアン=ケロッグ不戦条約が、戦争にもたらした効果と同じようなものを、この条約は現実の核兵器の禁止に対して及ぼしかねない」とLa Fondation pour la recherche stratégique (?戦略研究財団)の所長 ブルーノ・テルトレは皮肉る。

今回のノーベル賞は、おまじないみたいなものである。核撤廃は宣言されていない。冷戦の間ずっと衝突を避けることができたのは、核への恐怖が均衡をもたらしたからだ。レイモン・アロンの有名な言葉によれば、「核抑止力が極端な暴力を取り込んでいる」わけで、取り込むとは2つの言葉、包含すると制限するとを意味している。


世論の動員
ベルリンの壁崩壊後の混沌とした世界において情勢は変わったものの、いまだに核兵器は戦略的に鍵となる要素のままである。核を保有する大国は、この条約が核拡散防止条約の効果をさらに弱めてしまうのではないかと懸念している。様々な制限はあるものの、核軍備競争を制限してきたのは核拡散防止条約である。

さらに核拡散防止条約条は、その第6条において、署名国が核軍備競争を止めるべく「誠実に交渉を継続し」、最終的には「多岐にわたる徹底した軍備撤廃条約」にいたることを誓約するよう規定している。しかしこの点に関しては、実際には事態は全く進展していない。そのために核拡散防止条約の国際会議とは別に、2007年にウィーンにおいてICANが設立されたのだ。

この運動は、設立当初から、核保有大国を孤立させるために多数の国家の世論を動員することを戦略としていた。それは、対人地雷禁止条約(1997年)や、クラスター弾禁止条約(2008年)を推進してきた戦略と似ており、アメリカ、ロシア、中国、インドのような国々はこれに署名しようとはしなかった。しかし、このような兵器の使用は、法の適用外となることはなく、常に最も恥ずべきものとなる。

この闘いをフランスで進めているInitiatives pour le désarmement nucléaire(?核軍備撤廃提言)の副所長 ジャン=マリー・コランは、「強力な国際的な法的規定を新たに作ることによって、核兵器に罪悪であるとの焼印を押すことが可能となり、それが保有する国家への圧力を高めるでしょう」と説明する。

この国際的な運動は、1984年のノーベル平和賞受賞者で南アフリカ大司教 デスモンド・ツツのような精神的な分野の人々のみならず、ロシア人ミハエル・ゴルバチョフのような国家・政府首脳経験者や、アメリカ人ヘンリー・キッシンジャーのような外相経験者といった多くの人物の支持を受けている。

ICANは個人からの寄付、EUおよびノルウェー、スイス、ドイツ、ヴァチカンといった国家からの出資を財源としている。この組織の予算は、年間100万ドルに及ぶ。ノーベル平和賞のたっぷりとした支給金(900万スエーデン・クローナ、94万ユーロ相当、*1億2400万円相当)によって、核兵器のない世界という夢を実現しようとするさらなる手段が、この運動に与えられるであろう。
(Le Monde紙 2017年 10月9日)