人間の仕事はどこへ行くのか

人間の仕事はどこへ行くのか ダニエル・コーエン École Normale Supérieur rieur経済学部長


「製造業において80万人、農業において100万人の職が失われた。」


ブノワ・アモンの勝利には、ベーシックインカムが大きく貢献しており、その構想は第一回投票を白熱させた。その概念としては古いものの、この構想は社会的な問題提起を行う新たな手法として認められている。これに反対する人々は、これは労働を放棄することであり、怠惰になる権利であると考えていた。それは明らかに事実とは異なる。最初にこれを支持したトマス・ペインは、これを遺産を相続した者たちとそれ以外の人たちとの間にある格差を緩和する手段とみていた。ここでは、遺産を相続すれば働かなくなるなどと主張するものは誰もいなかったのである。しかしながら、この措置が変遷していく雇用形態に対する回答であると考えられていたことは明らかである。この措置は、社会につきまとっている、人間の仕事はどうなってしまうのだろう、という人々人々の懸念を和らげることを目指している。

ベーシックインカムに賛同するからといって、「仕事が終わる」と信じる必要はない。これまで雇用は、工業やそれ以前には農業に従事する人々に、社会を統合する力を課していたが、その力は失われるものの、それ以上に雇用そのものが失われることはない。労働省管轄の「 La Direction de l'Animation de la Recherche, des Études et des Statistiques (DARES)(?: 調査、研究、統計の推進部)」のデータは、この30年間で出現した劇的な変化について驚くべき展望を示している。工業分野において80万人、農業では100万人の職が失われているのだ。この減少は、とりわけ民間・公共のサービス業において100万人、医療業界においてさらに100万人の雇用を創出することにより補われており、最も雇用を行ってきたのはいずれもこれらの分野である。これに比してIT技術分野は、同じ期間に30万人の雇用をもたらしただけである。これは、情報化社会における主要なパラドックスの一つとなっている。社会の核心となっている分野が、あまり雇用を作りださない。IT革命に抵抗している職種とは、ソフトウェアやロボットにはうまく模倣できないこと、経済学者たちが今日使う表現を繰り返すなら「ルーチン作業ではなく」「社会的な共感」を得やすい仕事である。

新たな情報化社会における雇用は、「ハイテク」である必要はないのだ。個人向けのサービス業は、収入配分ではとりわけ下位のランクに位置する。これらは多くの場合非正規雇用であって、しっかりとしたキャリアの展望はない。ベーシック・インカムがその役割を果たすのは、ここなのである。それは労働者たちに、もはや生産的な世界が彼らに与えることのない、社会保障を与える。医療産業は、雇用を創出するもう一つの勢力である。これは介護業務から医師に至るまでの社会のすべての階層をカヴァーしている。そこでの問題点は異なる種類のものであり、つまりは社会保障制度(Sécurité sociale)のバランスを取る、との名目のもとでこれを抑制すべくあらゆることが行われている。しかしながら、社会の要請は最も強い分野である。

社会福祉の収支を圧迫している制約は、ベーシックインカムの経費の問題を強調する。国庫を倹約するスタイルであればこれに応えられるし、それは将来行われるであろう議論の過程で、疑う余地もなく明らかとなってくる。しかしすでにこの議論は、汗と涙なくしても将来について語ることができるのだと示すことで、いずれにしてももう選挙戦を魅了している。
(L'Obs誌 No2726-02/02/2017)