優位にあるアベ・シンゾー

22日の衆院選での勝利候補である首相は、憲法改定のための過半数を願っている。


日本国首相 アベ・シンゾーはこれをほとんど信じようとしなかった。10月22日に行われる国会議員選挙は、政界の激しい再編にも関わらず、彼の集団である自由民主党(自民党)による日本の専制的支配を確認することとなるようだ。2012年から政権についたアベ・シンゾーの保守派政党は、18日のキョードー通信の調査によればおよそ300議席を確保することになる。このような結果となれば、完全過半数は確実で、さらに連立与党コーメイ党(仏教団体ソーカ・ガッカイの政治部門・発露)を加えれば、国会での2/3議席になることとなる。これは、アベ氏の重視する憲法改定プロジェクトを進めるために必要な議席である。

この人物は、とりわけ北朝鮮の脅威と国民の高齢化を挙げて、日本が「国難」に直面しているとして、9月28日に衆議院の解散を発表し、その側近たちまで驚かせたのだが、彼にとって今回の選挙戦は、もっと不確実なものになると予想されていた。


職権乱用のスキャンダル
彼に反対する人々は、彼が関係したモリトモとカケー学園に関連する職権乱用(trafic d'influence)のスキャンダルに対して、議会での質疑を免れるための手段だと見ていた。彼の選挙戦では、アンチ・アベな人々が一連の件に関して彼の街頭演説で説明を求め、邪魔をしにやって来るという事態が立て続いた。

東京都知事である保守派のコイケ・ユリコが、6月にアベ氏の政党を離れ希望の党の創設を発表して以来、この選挙戦の始めには人々も新たな競合勢力の出現だと考えていた。この政党はまず世論をとらえ、すぐに衆議院での200議席を達成した。共同通信の解析員 スギタ・イロキによれば、これは「もはや人々がアベ氏を愛していない」ことを示すものである。スギタ氏は、「その成功をもとに、コイケ氏は自民党内のアベ氏のライバルたちと交渉し、新たな政府を作った可能性がある」ともいう。

しかし投票の直前に行われた今回の世論調査では、希望の党の当選者はおよそ数十人にとどまるであろう。スギタ・イロキは「コイケ・ユリコは2つのミスをした」と強調する。「彼女は最大野党である民進党からの進歩派の合流をバッサリ拒絶した、これが排除だと見做され、彼女の台頭を拒否することとなった。」

彼女の政策がアベ氏の自民党のものとほとんどかわらないため、有権者へのメッセージもいっそう混乱した。唯一の大きな違いは、コイケ氏が今から2030年までに脱原発するとしており、また「アベノミックス」と差別化すべく「ユリノミクス」と称した税制および新たな経済政策である。上智大学政治学ミウラ・マリは、「コイケ氏には強い確信はありません」と見ており、その全てを一人で決断し僭主的な方法で対処する傾向も強調している。

この段階からもしアベが生き残るなら、それは波乱となった9月1日の方針変更から全くグダグダだった民進党が、事実上の第一与党となったコイケ氏がもたらす勢いに抵抗しなかったということだ。この政党の、マエアラ・セイジ党首率いる右派が、この都知事と合流したのだ。

民進党の左派は、進歩主義の立場から逆にコイケ氏を拒絶し、エダノ・ユキオに続いて立憲民主党を創設した。彼は2011年にフクシマで起きた地震、ツナミ、原子力災害の大災害の際に、政府の官房長官を務め、その後経済大臣となっている。この政党は、共産党および社民党と連合している。これ以来、今回の選挙は、アベ氏、コイケ氏の保守派と、進歩主義者であるエダノ氏の3陣営で争われている。

論戦の核心には、日本の安全保障を確立するためにアベ氏にとっては絶対必要である、憲法改定がある。これは、第二次大戦の間(pendant)の国家の敗北によって受け継がれてきた平和主義の伝統を覆し、日本の軍隊を同盟国アメリカ側の海外軍事作戦に参加できるようにすることを意味する。2007年に防衛大臣だったコイケ氏は、憲法改定に対しては柔軟だと言っている。進歩派の立民党陣営に関しては、憲法改定に反対して集結している。

首相は、2019年に8%から10%となる消費増税を行い、その増収分で保育園と小学校から教育を無償科するともお約束している。これに反してコイケ氏は、日本企業の莫大な内部留保にさらに課税するために、消費増税は延期が望ましいとする立場にある。


「状況は明白になった」
上智大学のナカノ・コイシによれば、現在起こっている政界再編は、力のある野党を作る機会をもたらしている。「エダノ氏は、自分の政党が人気があるために賭けに成功しました。」立候補者を78名しか立てることができず、資金力があまりなかったとしても、50名ほどの当選者を確保することができ、それは未来への基盤となるであろう。もっとも民進党上院議員マキヤマ・イロエは「野党民進党の分裂によって、情勢が明白となった」と指摘する。「以前は、この党には派閥の異なる人がたくさんいすぎたのです。今回の選挙が終わったら、新たなプロジェクトを作っていきますよ。」

10月16日のNHKによる10月世論調査によれば、日本人の2/3が投票に行くつもりだと言っている。東京では、期日前投票が前回の2014年の衆院選に対して30%増えている。しかしナカノ氏は、「すべてが非常に混乱しているので、棄権率も50%ぐらいと記録的になるかもしれない」と懸念している。実は棄権はアベ氏にとって逆風となり、彼の成功の可能性を幾分か不安定にしかねないのだ。
(Le Monde紙 10月20日 2面)