2020年オリンピック:電子メールが嫌疑を強める

2020年オリンピック:電子メールが嫌疑を強める

ル・モンド紙が、トーキョーオリンピックをめぐる買収説を裏付けるメッセージのやり取りを明らかにする。



それは短いメールだった。ル・モンド紙の得た情報では、2020年のトーキョーオリンピック誘致をめぐる買収疑惑に対してもう2年近く取り組んできた捜査員たちが、組み上げようとしてきたパズルに新たなピースを嵌め込んだ。それは2013年9月7日にラミーヌ・ディアクに送られた電子メールである。

この日、当時国際陸上競技連盟(IAAF)の会長であり、国際オリンピック委員会の有力メンバーでもあったこの人物は、2020年夏のオリンピックの開催地の投票に臨んでいた。

トーキョー、マドリッドイスタンブールが候補地となっていた。IOCのメンバーが集まったブエノスアイレスヒルトン・ホテル内の上質な応接室には、まだはっきりとしない空気が漂っていた。日本から立候補の提示がなされ、2年前にフクシマの惨劇があったにもかかわらず、これが最もしっかりしていた。イスタンブールは緊迫した政治情勢に立ち向かわなければならず、マドリッドは経済危機という重い課題を抱え込んでいた。


ふざけた絵文字
この投票当日、ラミーヌ・ディアクは、ある懸念がその感嘆詞に込められた一通のメールを受け取った。「アフリカのあるメンバーの情報では、アーマド師が、アフリカのメンバーにマドリッドに投票するよう仕向けようと、あらゆることをやっているようだ!!!この休憩の間に止めなければ。署名:マサッタ」 会長は「このセッションが終われば話すことができる」と短く返信する。

調査員たちにとっては疑うまでもない。このメールを打ったのはまさに彼の息子パパ・マサッタ・ディアク、国際陸連の前マーケティングコンサルタントである。今日では国際逮捕状の対象になっているパパ・マサッタ・ディアクは、国際陸連ぐるみでの贈収賄事件の核心であったとの疑惑を受けている。

たとえこのメールが簡潔で、金銭授受には言及していなくても無駄であり、これは調査員からみれば、彼が2020年オリンピックの誘致過程に関与しているという説を確固なものとするための決め手となる要素になる。これは、2020年の東京オリンピック誘致委員会から、シンガポールを所在地とする会社ブラック・タイディング社に宛てた2回の重要な送金に、特別な意味合いを与える。それは2020年オリンピック開催地が決定した前後の2013年7月29日と10月25日の日程で行われ、その金額はそれぞれ95万ドル、137万ドルだった。ここでブラック・タイディング社とは、パパ・マサッタ・ディアクの関係者によって設立されたダミー会社であり、かなりの金額を定期的にセネガルに送金していた。日本の立候補を支援するものたちは、ブラック・タイディング社への送金の存在を2016年5月に認めていたが、「コンサルト料金」だといって規定への違反を否認していた。

これらの金銭的な要素をまず基盤として、2015年12月24日にフランスにおいて、国家金融検事局が2020年オリンピック東京誘致に関する司法上の情報収集を開始した。ラミーヌ・ディアクは、国際陸連に対する捜査においてすでに「買収」および「aggravéなマネーロンダリング」(?)で審理を受けており、これ以後は、この第二の事件での「弁護人を付された証人」の立場に置かれた、とル・モンド紙は報じている。

コメントを求められたラミーヌ・ディアクの弁護士は、その依頼者は「報道機関に語る以前に、司法への不確定な申述を控えるだろう」として、「人々は彼をある犯罪に結びつけたがっているが、それには彼は関係していない」と述べた。パパ・マサッタ・ディアクは、ふざけたようなエモジで区切られたメールに、「あなたの件がいつものようにうまくいくといいですね、2020年には東京で、独占インタヴューのためにお会いするかもしれません」と書いているが、これ以上は詳細ではない。この2013年9月7日のメールのやり取りは、この前国際陸連の会長でIOCのメンバー(彼はこれを2015年に辞任している)が、トーキョーに有利となるように投票するようアフリカのメンバーに働きかけた、とする説をさらに強固なものとする。


厳重に調べられた288 000通のメール
投票者97名のうち、ブエノスアイレスは南米からの10票余りであった。そこには大きな働きかけがあり、影響力が最も大きいラミーヌ・ディアクのような人々にはとりわけであった。我々の得た情報では、80代となるこの人物はこの日、レジェップ・タイイップ・エルドアンのチームから、当時トルコの首相であったエルドアンとの面談に彼を招くメールを受け取っている。メールにあげられていた「アーマド師」とは、クエートのアーマド・アル=ファード・アル=サバーのことで、当時IOCのメンバーで最も発言力があり、スペインのオリンピック委員会の会長 アレジャンドロ・ブランコ・ブラヴォーに最も近いとされていた。FIFAのメンバーでもあるアーマド師は、複数の買収事件で起訴されており、国際サッカー連盟の辞任を最近余儀なくされている。

捜査員たちがこの機構のメンバーの600のメールボックスの内容を獲得した(aspirer)のは、2015年11月3日のモナコ国際陸連支局への家宅捜査であった。金融・脱税犯罪中央対策局の警官によれば、この莫大なデータベースの中で、当時の会長を含む28のメールアドレスが厳重に調べられ、それは「28万8千通」になった。世界アンチ・ドーピング機関は、2016年1月に日本の立候補をめぐる買収嫌疑についてすでに言及した報告書を出している。トルコの陸上競技選手 カリル・ディアクによれば、ラミーヌ・ディアクの別の息子の1人が、自分ならドーピングの痕跡記録を隠蔽できると彼を説得しようとしており、2013年の年末に行われた話し合いの中で、日本人たちが国際陸連への数百万ドルの支援スポンサー料を支払うことを了承したので彼の父親はトーキョーを支持したのだと言っていた。

2013年9月7日、トーキョーはマドリッドに対して、最終的に60票対36票(棄権1)で優位に立った。明らかな勝利ではあるが、捜査員からみれば、ますます正当なものとは見えない。
(Le Monde紙 2017年10月21日)