陸上競技 : 国際陸連の怪しい契約

陸上競技 : 国際陸連の怪しい契約

ル・モンド紙」が、国際陸連とニッポンの企業グループ デンツとの間で締結された、スポンサー権とテレビ放映権に関する協定を明らかにする。



2年以上前から贈収賄の領域で国際陸上競技連盟(IAAF・国際陸連)を巻き込んでいる新情報が、もしも氷山の一角に過ぎないのだとすれば。そしてもし、その最も衝撃的な要素は、ニッポンの広告企業 デンツ・グループ(le groupe Dentsu)と締結された、放映権とスポンサー権の数千万ユーロ(*数十億円)の契約うちに潜んでいるのであれば。

ル・モンド紙が検討することができた84ページにわたる1通の書簡、そこには一般にはめったに触れることのできない世界に潜んだ、衝撃的なものがあった。この証拠物件は、2017年7月24日付けで国際陸連の弁護士レジ・ベルゴンツィからルノー・ヴァン・ルインブク判事に送られたもので、2008年から2015年の間にデンツの幹部たちと国際陸連会長 ラミーヌ・ディアクが締結した複数の協定を添付した紹介状からなる。

「極秘」とされ、これまでその詳細は決して明らかとされなかった。この弁護士は、予め送金された1500万ドル(*16億円)の「謎の」送金、「格別の措置」、「裏報酬」を重要視しており、これらは世界でも最も勢いのある広告代理店の一つであるニッポンのこの企業グループのイメージに対して、災厄をもたらしかねない。

これまでは、この国際陸連のトップの贈収賄の疑いは、ロシア陸上競技界における複数のドーピング事件を対象としており、この疑惑は金銭でもみ消されている。IAAFの前会長、セネガル人のラミーヌ・ディアクは、この取り引きで演じたとされた役割に対して、2015年11月に調査を受けている。彼の息子であり国際陸連の前マーケティングコンサルタント、パパ・マサッタ・ディアクは、この件で大きな役割を演じた容疑で国際逮捕状の適用となった。それ以後彼は、ダカールに引き上げて暮らしている。その上にディアク親子は、今回は2016年リオおよび2020年トーキョのオリンピック開催地の選定をめぐる投票の買収をねらった、タコ足のようなこの案件の第二部に関与している。


複数の秘密条項
この一連の法律がらみの話題(?: feuilleton judiciaire)において、今回の新しい出来事を理解するためには、過去を振り返ることが是非とも必要である。2000年代の始めまでは、国際陸連のテレビ放映権はスイスのマーケティング会社ISLが保有していた。しかし、国際サッカー連盟国際オリンピック委員会の幹部たちに贈賄を行った経歴に対して司法による再逮捕が行われ、ISL社は2001年に破産した。そこで次の新たなパートナーを求めて、国際陸連はデンツに関心を向けた。陸上競技に関連する特有の問題を処理し、国際陸連が獲得していた複数の権利の活用について交渉するために、このニッポンのグループ企業は、ISLのOBで構成されたスイス企業で下請けを代行することになる、アスレティクス・アンド・マネージメント・サーヴィス(AMS社)のサービスに頼ることになった。

2008年に国際陸連は、2010年1月1日から2019年12月31日までそのテレビ放映権と世界マーケティング権を独占する権利を認める新たな契約を、このニッポンの巨大企業と締結する。国際陸連の後援で組織された主要なコンペティションが関与している。今度はデンツが、これらの権利の収益を最大限とすべく、AMS社の援助によって多くのメディアやパートナーを見つける番である。

ベルゴンツィ弁護士は、その書簡の中で、「その代償としてこの協定では、デンツは、この契約に基づいて発生した利益から、最高で年額437万ドル程度(*4億6千万円)と明記された諸経費を差し引き、そこからその40%に相当する額を2019年に国際陸連に移譲すること(収益分配)を誓約すると予め規定されていた。さらにデンツは、最終的に2019年に国際陸連に対して支払われるべき「収益分配」から差し引かれることになる総額1800万ドル(*19億円)を、毎年国際陸連に移譲しなければならならなかった」と指摘する。

2014年夏の終わりに、国際陸連とデンツは、次の2020年から2029年の期間の協定を締結している。この日本の企業グループから毎年送金される最低報酬額は、1800万ドル(*19億円)から2200万ドル(*23億4千万円)となる。そろそろ国際陸連を去ろうとしていたラミーヌ・ディアクは、この調印を公然と自賛している。「それは国際陸連と連盟加入者に対して、財政面において著しく優れた安定を保証してくれる」と彼は断言する。

この自己満足している人物には、当然の報酬があるのだろうか。当時のマスコミは、国際陸連とデンツーの幹部たちが満足していると述べるにとどめざるを得ない。しかしそれ以降、国際陸連では、2007年から2015年にその副会長であったイギリス人、セバスティアン・コーが会長となり、国際陸連のこの弁護士が、これを読んでとても真剣に問題とした。そして彼が司法に開示したこれらの契約が、混乱を招いている。

実際にこれらの複雑な協定を見ると、予想外の条項が明らかとなる。2019年と2029年にそれぞれの契約が終了するとき、デンツはその利益の40%を払い込まなければならない。しかし、「この利益のなかで国際陸連のものとなる部分は、デンツが国際陸連から認められた複数の権利によって徴収し、その結果として実質的にデンツが受け取る金銭をもとに算出される」とこの弁護士は指摘する。問題点は、この計算方法であれば、仲介業者たちは自らに報酬を出すことができるため、これによって(*こうやって経費を増やすことで)国際陸連に最終的に割り振る予算枠を減らすことができる。

言葉を換えれば、利益を国際陸連と分配する際に、デンツは自らが希望する額とほぼ同額で申告することができるのである。さらに弁護士ベルゴンツィ先生は、「デンツはその権利をたびたび第三の企業に譲渡した。」「この階層の複数の企業が、譲渡された権利によってもたらされた利益の大きな部分をそれぞれ順番に天引きした、とも言える」と明言する。しかし、別の面ではパパ・マサッタ・ディアクも、AMS社に委託され「取引のどちら側からも利益を引き出している」。Le Monde紙から要請を受けても、AMS社の幹部たちはこれに応じようとしなかった。

パパ・マサッタ・ディアクとしては「国際陸連とデンツの契約に関しては、私は一切の手数料をもらっていない」と断言する。「私が報酬として受け取ったものは全て、AMS社と結ばれた契約で私に割り当てられた領域のなかで、スポンサー権とテレビ放映権の契約販売の範囲内のものである。」前会長の息子の記憶では、このデンツーとの協調によって、2001年から2029年にかけて「4億9200万ドル」(*522億円)が国際陸連にもたらされたようだ。


予め送金された1500万ドル(*16億円)
レジ・ベルゴンツィは、「国際陸連に支払われるべき金額の算出および支払いに関しても、その知的所有権の認可に関しても、国際陸連がデンツに対して監査を実現することは、いかなる理由があったとしても許可されない」ことを遺憾に思う。このために国際陸連には、この規定が守られているのかどうか、実際に生み出された利益の40%がきちんと移譲されているのかどうかを検証する手段がない。

その反面で、国際陸連のこの弁護士は、「驚くほど」前もって2013年と2014年に行われた、デンツから国際陸連への1500万ドル(*16億円)の送金についてあれこれと考える。「2020年まで、その利益に国際陸連が請求できる該当部分はなかったはずである」と彼は考えている。何故にこのような「プレゼント」が?2013年9月7日に選出された2020年トーキョ・オリンピックの候補地選定において、彼が演じた役割に感謝するということなのか。1990年からこの団体の会長を務めていた人物が去るにあたって、国際陸連の財政を安定した状況に修復するということなのか。パパ・マサッタ・ディアクに手数料を払うことを意味するのか。

慎重なレジ・ベルゴンツィは、「当初の国際陸連-デンツの協定の条件が、これを基盤として再交渉された理由は、少なくともはっきりとは分からないままである」と記すにとどめている。ル・モンド紙からのコンタクトを受けても、この国際陸連の弁護士は、コメントすることも、彼が司法に書状を送った意図を明らかにもしようとしたがらなかった。ラミーヌ・ディアクの法律顧問たちやデンツの幹部たちからも、我々の質問には返答が得られていない。

独立した委員会である世界アンチドーピング機関は、2016年1月にその報告書で、「パパ・マサッタ・ディアクに関連したマーケティング権とスポンサー権の契約、協定に対して、独立した機関が徹底的な監査を進める」よう勧告した。その後国際陸連ル・モンド紙に、これらの監査を指示してあると伝えている。公式にはこの件に関して公表することなく、これらの契約における「秘密条項」をその口実としている。司法に送られた書状に関しては、国際陸連は「捜査の利益のために」それに関してコメントを控えている。

国際陸連の顧問はコンサルトを受けていない
デンツとの協定に署名した国際陸連の前会長、ラミーヌ・ディアクのほかに、その内容の事情に通じていたのは誰なのか。この厄介な問題に関して、国際陸連ははっきりしないままだ。連盟によれば、「評議会(会長、副会長を含む27名のメンバーが所属する)には、これらの契約の内容に関する申し立てがなかったが、それはこれを先の管理体制下に置く義務がなかったからである」。「彼がサインする前に、他の誰がこの内容に関してコンサルトされていたのか、私たちには確認できない。なぜならこの契約に署名した人物(ラミーヌ・ディアク)は、もはや組織の味方ではないからである」と国際陸連は付け加える。

(Le Monde紙 2017年2月10日)