日本政府を当惑させるポール・クルーグマンの「メモ」

ポール・クルーグマンはうっかり者なのか、それとも確信犯なのか。このアメリカのノーベル経済学賞受賞者は3月26 日、その4日前に行われた日本政府のメンバー、特にアベ・シンゾー首相やアソー・タロー金融担当大臣との会談の議事録を、オンラインで公開した。クルーグマン氏は、5月26日から27日に日本で予定されているG7首脳会談を控えた日本政府当局との協議の枠内で参加していた。

12ページにおよぶ世界経済に関する意見交換の文書の中で、彼は消費税増税プロジェクト、またはG7について述べている。これが3月31日に日本で暴露され、この件は、厳密に広報活動を統制することにこだわってきた日本政府にかなりの困惑を引き起こした。そもそもこれらの討論の主要部分は、「機密」とされていなければならなかった。

政府の官房長官 スガ・ヨシヒデは、コメントを拒否した。4月1日に彼は「自分が思うには、それはクルーグマン教授のメモであって、政府が起草した文書ではない。」と明言している。


「この問題を打開させたものは何か?戦争です」
いずれにせよ、今現在も見ることができる「メモ」によれば、アソー・タローは、企業が多額の内部留保を貯め込んでいる現在の日本の状況を、1930年代終盤のアメリカになぞらえている。「あの問題を打開させたものは何ですか。戦争です!」とアソー氏は言い切る。彼は今日の日本のために「企業の精神状態を換える」手段が欲しいのだ。戦争が「マクロ経済の視点からは非常に重要な財政刺激」となったことは認めながら、クルーグマン氏は、企業の投資を奨励するために「他の方策を私たちが求めているのは明らかなことだ」とした。

日本政府にとって、その手段の1つは財政再建だろうと思われる。この点について今回の「メモ」は、アベ氏がドイツに、この領域でさらなる柔軟性を発揮するよう説得したがっていることを明らかにしている。首相は4月末から5月の始めに、特にアンゲラ・メルケル首相と会見するためにヨーロッパに行くことを想定している。

彼はクルーグマン氏に、ドイツ政府が財政支出の厳しい管理を断念するよう仕向けるアイディアがあるかと質問している。クルーグマン氏は「私は高度な外交の専門家では決してないが」として、しかしながら気候変動に言及しつつこの質問に取り組む提案をし、「グリーン・テクノロジー方面に進んでいくための民間投資を促すことは可能だろう」と認めた。

この質問は、どんよりとした経済成長と夏の選挙の大事な投票日とを目の前にした日本政府が、少なくとも5兆円の経済再建策と、さらには2017年4月と見込まれた消費増税の延期を計画していることを思いおこさせる。

アベ氏は、G7においてパートナーたちに、2月末に上海に集まった経済責任者たちによるG20のものよりもさらに踏み込んだ声明を受け入れてもらいたいと考えており、世界規模での回復のために「可能なすべての手段を使うよう」彼はすでに呼びかけている。
(Le Monde紙 2016年4月5日)