ベンジャマン・オートゥクヴェルチュール「化学兵器、プーチンが民主主義を試みる手段」

ベンジャマン・オートゥクヴェルチュール「化学兵器プーチンが民主主義を試みる手段」

シリアでの化学兵器使用に関するロシアの系統的妨害行為は、この研究者によれば、国際法の擁護者たちの毅然とした態度を見定めるという意図を示している。



インタヴュー
国際安全保障、大量破壊兵器の拡散、核抑止力の問題の専門家であるベニャマン・オートゥクヴェルチュールは、パリの戦略研究機関の主任研究員である。


シリアにおける化学兵器の使用に対してなぜ無反応なままでいてはいけないのですか。
実際には、カン・チェイクンの攻撃(2017年4月4日、シリア軍機による反政府都市への化学爆撃は少なくとも100名の市民の死を引き起こした)から1年後の、4月7日のドゥマへの攻撃においてこれらの兵器を使用したとされる最近の申し立てに対して、なすがままに任せることは全く可能です。2013年に、シリア紛争の枠内でオバマ大統領によって引かれた最初の「レッド・ライン」が侵害されていますが、これはまさにそれ以来の出来事です。しかし、それを我慢することは、犠牲者に関してだけではなく、集団安全保障(国連安全保証理事会)、国際法(化学兵器禁止条約: CWC)、自由民主主義による誓約(合衆国、ヨーロッパ連合など)の観点からもとても危険となっています。

結局は、シリアにおける化学兵器の使用は、ここ10年来の世界におけるこの国際法の規約に対するあらゆる攻撃を、戦略的、政治的そして象徴的に集約しているのです。シリアでの化学兵器の使用に対する反応の問題点は、このレヴェルに位置しているのです。フランスと合衆国はその第一線にあるのですが、しかしこれに該当するのはこの2ヵ国だけではありません。


エマヌエル・マクロンが「レッドライン」があると言って行動しない場合、これはそれを弱めるのですか。
政治的に「レッドライン」を使うことは、危険な形の議論となります。この場合、CWCに定義されているようにレッドラインは化学兵器の使用であって、化学兵器が殺人を行う時に多国的な手段でその使用者を特定してもよいと宣言されるなら、レッドラインは逆効果です。実際に、2017年11月にロシアが、任期の更新そのものに対して拒否権を行使して以来、国連内には共通した利害をもつ調査機構はもはやありません。確かにまだ化学兵器禁止機構(OPCW)はありますが、それらは事実を立証することをめざすだけで、その責任を立証するのではないのです。


イギリスにおいて、ロシアの元諜報員セルゲイ・スクリパルとその娘に対して、ノヴィチョーク・ガスが使われたらしいということは、なぜ驚くことだったのでしょう。
イギリス当局が今のところ私たちに言っていることを信頼する必要があって、彼らは補足的な鑑定を求めてOPCWに提訴しました。それは、一般大衆だけではなく化学兵器禁止協定の化学製品に関する附表1でも知られていない、中枢神経系を冒す第四世代の神経障害性神経ガス、ノヴィチョークのことです。このガスは旧ソヴィエト連邦で1970年から1980年代にかけて知られるようになりました。他の出どころを私たちは知りませんし、その結果イギリスはすぐにロシアを非難しました。おそらくこれらの化学製品が見つかるであろう、旧ソヴィエト帝国と独立したその共和国について語ることを除けば。ソヴィエトの崩壊後、軍用の化学薬品の備蓄の一部が分散したと推測することが可能です。ノヴィチョークガスは台帳管理されていませんでした。それゆえ使用された薬品がまさにノヴィチョークであったとしても、それがロシアの所有物だと証明することがたいへん難しいのです。


アメリカに亡命しているヴィル・ミラヤノフ博士が、ノヴィチョークの類似品の総量と製造地を説明しましたが、彼以外の専門家たちはこの件を明らかにしたのでしょうか。
この件に関する徹底した情報は一切もたらされていません。自然科学者たちが、間接的な証言を持って戻ってきただけです。1980年代に科学的な交流はなく、研究の交流もありませんでした。科学者たちは、スクリパル事件に関して大して言うべきことも持ち合わせていないわけで、この製品の化学構造は完全にはわかっていません。


私たちが語っている物質がOPCWのリストに含まれてないのであれば、それは禁止されているのだろうかと疑問に思う人もいます。
はい、あらゆる化学兵器と同様に禁止されているものです。シリアにおける塩素ガスの使用が同じ疑問を引き起こしました。製品としての塩素は禁止されていませんが、それが化学兵器になれば(その違法な性質に関しては)疑う余地がありません。同様にCWCの文書においても、化学製品に関する附表は「条約の内容として化学兵器の定義を指定していない」のです。それゆえ、ノヴィチョークがそこに記載されていなくてもどうでもいいことで、それは禁止されているのです。


化学兵器を禁止するこの協定が1997年に発効されて以来、世界で推定される保有量の残量はどうなっているのでしょう。
各国によって申告された内容について言えば、正確な記録があります。ロシアはこの協定に加盟し、その在庫の破壊スケジュールに従いました。ロシアの在庫量の100%に相当する39,967トンが破壊されたことも分かっているように。しかしながら、ロシアはノヴィチョークの申告はしていないのです。2017年11月に、ロシアの化学兵器撤廃が完了したことが、OPCWのあるハーグで盛大に祝われました。それ以外については、1990年代に流失したものは分からないのです。闇取引がありました。 当時化学者たちは、ニッポンの新興宗教集団オウム真理教のような様々な組織のために、その独自の手段によって化学薬品を作ることができました。それに関しては、どれくらいの量かは誰にも分かりません。化学製品の闇市場があることは確かです。それについては、北朝鮮の人間が何かを知っていて、彼らが現在この闇市場を潤していることが非常に疑わしいことも、これは国連安全保障理事会がその最近の報告で確認していることです。


ロシアがノヴィチョークを隠したのであれば、それが悪しき意図ではなければその理由は、そしてなぜそれを使用したのでしょうか。
彼らは、この未知の、極度に有効な第四世代の薬品をいつか使ってみたいとやっぱり思ったからではないでしょうか。ロシアは、アメリカとともに化学兵器を最も多く製造する国に含まれ、化学武装解除はしたものの、この規約をないがしろにするような優れた素質を発揮しています。プーチン大統領の体制は、彼が間接的にシリアで、その責任を明らかにすることを担当した調査員たちの作業を妨害することによって化学兵器を弄んでいるのと同じ方法で、化学兵器に関するこの条約、および禁止の原則をないがしろにしています。偶然の一致は私はあり得ないと思います。それは、国際法によって確立された国家間の関係の普遍的な概念を基盤とする、国際的安全保障の積み重ねに逆らうために、熟考されて規約の網の目の中で示された選択なのです。

3月5日に国連理事会が北朝鮮に対する制裁実施に関する報告書を出しており、これでは常に北朝鮮とシリアとの間に闇の協力関係があり、そこには化学物質も含まれています。このレポートでは、2010年以来完全に禁じられていたこういった軍事的協力関係について、びっしり7ページを割いています。かなりおそらく、北朝鮮の人間がシリア人たちに製造施設を提供しているのです。


ロシアの駆け引きとはどういったものでしょう。
ウラジミル・プーチンは、2014年のクリミア半島併合以来、国際法、その治安維持憲兵、多国主義、世界の大民主主義国家、国際協定が強調するとおりに振る舞うような命令といったものを断固として無視することを示しています。これは、中距離核兵器全廃条約に対するものと同様に、ヨーロッパ通常兵器協定に対するクレムリンの態度のうちにとても明白です。北朝鮮危機に関する国連安全保障理事会への協力がないことのうちに明らかです。それは、シリアの件におけるロシアの体系的妨害行為を通じて明らかです。この忍耐強い破壊工作は揺るぎない。それは絶えざる妨害行為であり、常に正当な範囲すれすれにあります。不当な行為の事例では、その証拠・証明の最終的かつ決定的な責任がもたらされる可能性はありません。ロシアの体制は自由民主主義を極限状況に晒しているのです。こういった理由でロシアは、シリアにおいて国際法の擁護者たちによって確立された「レッドライン」とは、年々黄色になっていくオレンジラインであることを明らかにすることができたのです。これらの条件下にあるのなら、妨害行為を我慢するいかなる理由もありません。


化学兵器に関する条約とは、消滅しつつあるのでしょうか。
この状況は矛盾しています。この協定は192の国家により批准されたほぼ世界的なものです。3カ国だけがこれを批准しませんでした。それは満場一致で賞賛されています。OPCWは2013年のノーベル平和賞を受賞しているのです。しかし明らかに、国家による化学兵器の使用が、あちこちで再び同時に始まっていることに気づきます。 それはテロの兵器や、さらにはシリアにおけるグータ地域での事例のように戦術兵器として、ますます使用されるようになっています。

ロシア政府と同様にシリア政府としては、しかし北朝鮮も同様でこれは批准せずシリアの闇市場を潤しているようなのですが、これはこの規定の権威、より正確には世界で最も有効だとみなされている国際的安全保障の骨組みを崩すための一つの手段なのです。それは一つの象徴以上のものです。CWCは禁止条約です。これは条約を承認した国家もそれ以外の国家も区別しません。このシステムは機能するのですが、しかし何のために?それは安全の保障を維持するためであって、大量破壊兵器の禁止に関する国際法は、それがいかなる手段であれ暴力に訴えることの脅威を押さえつけなければなりません。


その結果はどのようになる可能性があるのですか。
禁止、撤廃、不拡散のような防止策が失敗に終わるとき、たとえば1981年にイスラエルがイニシアチヴをとってイラクオシラック原子炉を破壊することや、もしくは2007年9月にシリアのアル・キバルの原子力施設を破壊したことによって示されたように、この法律は暴力の一方的な行使の前で消滅するのです。この論理は情け容赦がありません。だからこれに対して用心しなければ、化学兵器の使用が今日提示しているこの問題は、明日にはよりいっそう危険な軍事的核兵器の領域において提示されることになるでしょう。
(Le Monde紙 2018年4月15-16日)