エリゼ宮で食べるバゲットを選ぶため、79本食べてきました

エリゼ宮で食べるバゲットを選ぶため、79本食べてきました


「お、200本のバゲット、とっとと行こう」とGuillajme Gomezが言い切る。このエリゼ宮のシェフは、私たちが危ぶんでいることに気づく。「そう、今日1日が終わる頃にはあなた方は少し膨れていますよ。これは教訓ですが、最初に気に入らなかったものはもう一度食べ直さないように。」これをどうやって、食べ直す?これから何度も味見をすることになるのか?Guillaume Gomezは、ロシアのあるテレビ局のインタヴューで記者につかまってしまう。たちまち不安になる。

4月12日、この日私は第24回フランス伝統のメイユーユ・バゲット・コンクールの審査員団の一員となった。パリ、サンルイ島のケ・ダンジュにあるパン・菓子専門職人組合に、181名の候補者が登録され、国際色豊かな17名から成る審査員団が、10名の最優秀者を決めるべくその日の午後をまるまる召集された。そう!私に科されたのはクールな人たちのテーブルだったのだ。Guillaume Gomezの他にも、パリ市主催の夜会を組織する市の助役Olivia Polski、2017年の優勝者Sami Bouattour、抽選で参加したいい感じの有力なパリ市民Denis Bourdainがいる。各自に同じバゲットが分配される。その外観、焼き上がり、生地の気泡の入り具合、その香りと味について、それぞれのバゲットを20点満点で採点しなければならない。

これをポンポンと輪切りにするのはGuillaume Gomezの担当で、小さな断片になったバゲットを食べる。最初は判定が難しいが、10個も食べると、最もしっかり焼き上げたものが味わいも深く、欠点は一目瞭然だと分かる。各自がコメントを持ち寄る。「ブサイクだが美味しいバゲットがある」(Olivia Polski)。「しかし、気泡を潰してしまっている!」(Sami Bouattour)。「そういう不備もロマンティックだ」(Denis Bourdain)。「いや、しかしぶっちゃけると、パン屋たちがあなたに持ってきたのは最もきれいなバゲットなはずで、これを見たとき、他のは一体何なんだと思ったでしょう」とGuillaume Gomezは、大きく笑いながら伝統がおかしくなって傾いていることを示す。


大量のグルテン
もう何切れ食べたのかなど言えなくて、Sami Bouattourが、バゲットの上の方は、下の方と決して同じ味ではなく、それはその二つを食べ比べてみる価値があるのだなどという時、それは明らかにモラルへの一撃である。一杯の水をグラスに注ごうとすると、Olivia Polskiが「私は、試食の最中にうっかり一度水を飲んでしまったことがありますけど、あなたたちにはお勧めできません。水を飲むとパンが胃の中で膨らんで、もう何も飲み込めなくなるんですよ」と私たちを止める。

特に優れた私たちのテーブルは、他の二つの審査員グループに対して進行が早かったので、それはエンドレスだったのだ。私たちのテーブルの上ににおかれたグルテンの山がはけると、運営側がすぐに 次を出す。私たちの味蕾は麻痺し始め、私たちはヒクヒクと笑い始める。こういう状態になるのは私だけではないはずだ。他の審査員たちからは、奇妙なフレーズが聞こえてくる(「あれはすごくいいけど、味が全然しないぞ」)。

集中力が落ちてくる。私たちのテーブルでは、私はある料理コンクールの審査員になった時のさらにひどい経験について話し合い、さらに、良いバゲットでその経験から抜け出したことについて語った。Olivia Polskiはチョコレート・エクレアでトラウマになったことがあるとか、鶏レバーのムースの賞を考えることを拒否したことがあると自慢した。その時何かを言いかけていたGuillaume Gomezが口をつぐんだ。彼は、一般人のチョコレート・ムース競技と、「ノール地方料理」の競技との間で心が揺れ、朝の10時から鯖のマロワールチーズがけを食べているのを発見されたことがある。

18時15分に、エリゼ宮の料理長がもう行かなくてはと言いだす。今夜彼には、200名分の夕食会があるのだ。「そしてそれに、大統領の今日の昼メシは学食だったから、腹空かしてるはずだ」、とか後ろの方から誰かがふざける。ともあれ約束は果たされた、私は79本のバゲットを食べ評価したのだ。

優勝者の発表を収録しに来たロシアのテレビ局やBFM-TVネットと全くいっしょに、私は結果の開票を待った。ついに、Olivia Polskiが優勝者の名を呼び、彼は4000ユーロ(52万3600円相当)を勝ち取り、1年の間エリゼ宮バゲットの御用達業者となる。14区ラスパイユ通り215番地にある、2MのMahmoud M'seddiである。電話口から喜びの声が上がる。優勝者を祝して、私はペットボトルのCristalineのキャップを開ける。乾杯! うぷっ...
ELVIRE VON BARDELEBEN
(Le Monde紙 2018年4月26日)