カレが私に誠実さと裏切りについて考えさせました

彼らの人生を変えた1冊 特集
「カレが私に誠実さと裏切りについて考えさせました」
ÉDOUARD PHILIPPE, 首相、『Des hommes qui lisent』(JC Lattès出版)の著者


「ある瞬間が生み出されるや、私たちがそれを体験するには豊かすぎる瞬間というものがある」とジョン・ル=カレは記しています。彼の作品に対しても同じように言うことが可能です。それは『la Taupe』のような、何度も私たちの心の中で膨らむ(à plusieurs détentes)ものです。心の掛け金をはずして、小さなひらめきが連鎖的に訪れます。最初の閃きは私自身についてで、文学と通俗文学は両立するんだなと、探偵小説が好きになったことが分かりました。これは本読みの一生で重要です。まったく自然に自分でもそれを書いてみたいと思い、実際に書いたことが2回あります。

2つめの閃きは、ある男の、もしくは女性の一生は何本かの糸でできているんだと。絡めることも断ち切ることもなく、並行した方法でたどり、握りしめることができる生命の糸です。それはその中に身を隠すための糸ではなく、息を吸いこんで自由になるためのものです。『La Traupe』はまた、信頼と裏切りについてしっかり考えられた作品です。裏切りにもかかわらず信頼すること。主人公のスマイリーは裏切られた、もしくは本質について考える男です。それでも彼は誠実であり続けます。彼の妻アンに対して、ボスに対して、国家に対して。その使命に対しても、時にはその意義を問うことがあっても忠実です。もう一つの問いは、力とは何か。弱さはどこに向かうのか。スマイリーを強く印象づけるのは、その体格の良さでも、行動でも、ましてやテンポの良いやりとりでもありません。彼は疑い、たじろぎます。しかし、彼にはより大切な切り札が与えられているのです。それは、恐るべき知性、あらゆる試練に対する冷静さ、事件と感情から距離を置くこと。いずれも彼が明らかにすることになる、しかし自らは示すことがない長所です。『La Taupe』を読んだとき、秘密情報機関について何かヤバいものを読んだような気がしました。事実よりも真実を語る物語で、そこでは安全保障は、最初から瑣末で実務上余儀なくされている問題です。男性主義的な宣言や、テカテカした筋肉や、おどけたユーモアとは全く無縁です。たとえあらゆる力が、リアリティーによってフィクションに与えているとしても。
(L'Obs誌 no.2803, 2018年8月1日)