ハラスメントの犠牲者たちを、もっときちんとしてあげるべきである

NATURE EDITORIAL

科学の世界には、セクシャル・アラスメントがはびこっている。教育機関はメンツにこだわろうとすることをやめなければならない。そして、加害者を懲罰し、犠牲者たちを援助しなければならない。

年長の科学研究者とは、通常は男性で、ラボメンバーのキャリアに並ならぬ影響力を持つものだが、何人の人物がセクシャルハラスメントによって大学から制裁をうけ、懲戒を受けたのであろうか。それは誰にも分からないし、ましてやっと初任地を確保したような、フィールドワークに長い時間をあて、社交的に振舞って、勤務時間後や学術会議ではコンタクトをとらなきゃというプレッシャーを感じている若い研究者には、分かりようもない。彼の同僚たちは、不適切な言葉や行為を何回ぐらい見て見ぬ振りをし、考えを改めるべき人物、そして倫理的に、法的に、そして契約上も行動を改めなければならない人物を弁護したのであろう。このような行為のために、もしくは表だってそれが深刻に受け取られないために、どれほどの若い科学者がポストを去り、もしくは全く科学から離れて行ってしまったのか。

このような疑問に対しては、私たちは答えを持ち合わせていない。しかし私たちに分かることは、セクシャルハラスメントは科学における深刻な問題であるということだ。そして、若い女性研究者たちがそれをしっかり断言していることも知っている。このことを知ったのは、大学がこの手の告発を公開し、そしてその処理において透明だからではない。公式の対応には満足できずに、被害者やジャーナリストなどの人々が、この告発に関する現実に光を当てているからだ。

例えばNature誌は、World View this weekのコーナーにおいて、年長の男性研究者からじつとりとセクハラを受けているある女性研究者の証言を公表している。彼の大学は彼女の告発に対して調査を行い、それを支持した。しかし大学側は、彼女にこの問題を内密にするようにと告げ、彼に対して何らかの措置を取ると約束しながら、加害者にはそのポストにとどまることを許した。Natureはこの人物が誰かを知っているのだが、しかし今回のケースでは、報復を怖れた被害者が人物の特定を希望しなかった。

セクハラを擁護する連中は、「白黒がはっきりつけられる」なんてことは稀で、その不適切な行為は「得てしてグレーゾーンに収まるのだ」というだろう。今回の女性の話を読んでほしい。あなたより30歳も年上の有力な上司がいて、出張であなたの家に泊めてくれと言って、キスをせがまれ、挙句にはそいつの夜のマスターベーションについて質問されて、いつまでも眠れなかったら、それは100%クロである。

Nature誌もそうだが、科学者たちがこういう行為に対して立ち上がることを応援してきた。しかし組織側としては、学生や若い研究者を犠牲にしてでも、実力のある教職員を守りたいというのが実情である。施設側は、遵守されるべき施設運営方針が悪用されたとしても、情状酌量の余地はあると公表しているが、しかしその関心はもっぱら秘密遵守と世間体の維持にあるようなことが多すぎる。

アメリ天文学協会における一連のケースがこれを示している。いずれのケースも、ある大学がある教職員に対するセクハラの告発を調査し、その告発を立証しながら公衆の目に晒さずに葬り去ろうとていた。


もしもどこかの調査主任が「うちの大学ではこんなことは起こるわけがないよ」と考えるならば、それは間違いである。
最近発覚したものとしては、先週公表されたものだがPasadenaのCalifornia Institute of Technologyの宇宙物理学者Christian Ottが、2人の女性の院生にセクハラをしたとして、昨年の給与が支払われず解雇保留となっていた事実が明らかとなった。女性国会議員Jackie Speier(民主党:カリフォルニア州)は、アメリカ議会下院の議場の場で、科学領域におけるセクハラを非難するという、異常な一歩を進めた。彼女は、連邦議会議事録に、2005年アリゾナ大学Timothy Slaterに関するセクハラ調査認定を収録させている。Slaterは、アリゾナ大学の天文学教員で、後にワイオミング大学ララミー校に移っている。

このような事例に続いて、最近で最も注目されたケースとしては、太陽系外惑星の探索者Geoffrey Marcyが昨年末にカリフォルニア大学バークレー校を追われているのだが、しかしそれは告発されてから、しかも大学による彼の調査結果がニュース・メディアによって暴露されてからの展開である。

このような行為によって告発された科学者たちは、その主張が実証されなければ、それが実証されるまでは個人を同定されない権利を有する。しかし捜査が終了・確定したならば、これに対して担当者は、その責務として必ず措置に移らなければならない。まず最初のステップとして懲戒処分にするのが妥当で、次になされるべきは犠牲者たちに科学を継続できる途を確保することである。

学生たちに対して自分たちの権利がどのようなものなのか、性的暴力を報告するためにはどのようにすればよいのかを明らかにするという、合衆国大統領 バラク・オバマ政権による試みのような、小さな進展はあった。そしてSpier議員は、法に抵触したことが判明している人物が施設を換える場合には、関与するすべての施設がこの状況を把握することを必ず実現するように、合衆国教育省に働きかけている。

もしもどこかの調査主任が「うちの大学ではこんなことは起こるわけがないよ」と考えるならば、それは大きな間違いである。今回のものは、いずれもたまたま地雷を踏んだような事例ではない。いずれもが、組織的に潜んでいる堕落の実例であって、これがたくさんの若い研究者たちを、容赦なく科学の領域から駆逐しているのである。
(Nature 529, 255 2016年1月21日)