トランプの脅威を前に、「Europe First」(ヨーロッパが第一)

社説: アメリカ合衆国の対外政策は、これからはアメリカ人の利益の保護を指針として決定され、それ以外はない。ヨーロッパの人々にとって可能な唯一の対応は、団結するということである。


ル・モンド社 社説  アメリカが第一。「America First」。もしも大統領に今回選出された、外交政策の展望を明らかにしないドナルド・トランプをよく分らない人物だと非難し得たならば、少なくともそこに、彼の指導原理となっていく彼の思考の中核をなすものも認めることができる。つまりこれからは、アメリカの対外政策は、アメリカ人の利益、それのみの保護を指針として決定されるであろう。自由主義的な政府介入主義、「多様な価値観」と人権の地位の向上、民主主義国家の原則を遵守した規範による国際的な共同体設立の意図、同盟国のリーダーシップと防衛、第二次世界大戦以来、調子の良かった時も悪かった時にも、様々な世界の場面においてアメリカの行動を特徴づけてきたこれらの全てのものが、トランプ流の独特の語りの中では明らかに欠落している。

ヨーロッパにとって、これは大きな試練である。大西洋の向こう側との関係には浮沈があったが、しかし、今日に至るまで、その基盤が疑問とされることは決してなかった。EUにとってのアメリカとの関係は、価値観の共有、政治体制、軍事的かつ外交的同盟、そして経済交流の共有などの言葉によって、実存に関わる次元のものであった。


団結すること
現段階で可能な唯一の対応は、一体となることである。EUは、およそ5億人の市民、世界のGNPでもアメリカの24%よりわずかに低い22%の消費者を有する共同体に相当する。11月13日にブリュッセルで召集された緊急外相会議や、大統領に選ばれたトランプに宛てたなるべく早いサミットへの招待とは、好意的な意図によるものである。つまり、ヨーロッパの人々は団結しなければならず、それは、他の様々なテーマに対しては彼らは分裂しているものの、アメリカとの関係における参加各国の関心は同じだからである。パワーバランスを上げ、その表現によれば「The Art of the Deal」 (ゲームの場を仕切る技巧)を重視するという、1人の指導者のこの論理の中では、これらの国家は個別では重きをなさない。

最近、特に科学技術大国アメリカとの税制の現場での複数の対立において、うまく優位に立てたのは団結したヨーロッパである。これらの分野において、EUは「アメリカが第一、まずはアメリカかが親だ」に対して、「Europe First」(親はヨーロッパ)でカードを引き続けていかなければならない。


民主主義の価値観を保証する国
ヨーロッパが無視してはいけなかった別のカードは、民主主義の価値感である。ドナルド・トランプアメリカがもはやそれを優先事項としないのならば、なおさらそこでヨーロッパの人々がその価値観を保証していかなければならない。アンゲラ・メルケル首相が、今回のアメリカの選挙に対する最初の反応から、この側面に言及しているのは正しい。つまり、アメリカとの「緊密な協力」は、共通の価値観に基づくべきだと彼女は述べた。大統領 フランソワ・オランドも、当選した大統領への書簡で、「私たちの基盤となる原理は、民主主義、自由、一人一人の個人への敬意である」と強調した。ヨーロッパは無力ではない。たとえばアメリカで死刑が減っているなら、その一部はヨーロッパの人々からの圧力によるものである。

最後に、安全保障と防衛については、ヨーロッパはとても真剣に考慮し直さなければならない。この点に関して、ドナルド・トランプは分かりやすかった。つまり彼は、自分の国家は同盟国の防衛のためにこれ以上支出を続けてはならないと考えている。単刀直入な現実主義が彼の見解におそらくエッジを付けてはいるが、しかしこれが彼の根底にある哲学なのである。その哲学を軽率に受け止めたりしてはいけない。
(Le Monde紙 2016年11月10日)