朝鮮で新たな戦争が起こった場合のいくつかのシナリオ

朝鮮で新たな戦争が起こった場合のいくつかのシナリオ


国連安保理事会が決定した制裁強化に対する北朝鮮の反撃は迅速だ。韓国時間の9月15日6時57分、ピョンヤン郊外のスナンから発射された新たなミサイルは、8月29日のものと同様に日本を飛び越え、北海道襟裳岬から2000 kmの太平洋に沈んでいった。キム・ジョンウン主席(président)は16日に、今回のミサイル発射の目的は、アメリカとの「力の均衡」を成し遂げ、北朝鮮を攻撃できないようにすることであると明らかにした。アメリカの反応はどのようなものであったか。アメリカ政府は、「テーブル上にはすべての選択肢がある」としている。それは、非難するが何もしない、軍事的制裁行為を起こす、体制を崩壊させようとする、もしくはトップを引き摺り下ろすといったことか。

2002年のコイズミ・ジュニシローのピョンヤン訪問を交渉した、東京の国際戦略研究所理事長で前外務副大臣のタナカ・イトシは、「合衆国と北朝鮮(RPDC)との軍事的対決の可能性も除外されていない」と、新たなミサイル発射の1週間前に考えていた。アメリカの戦略担当者は、弾道ミサイル発射施設を「攻撃によって外科的に切除」することで、北朝鮮の反撃に際しての核兵器を温存しつつ、北朝鮮には自らの不利益としかなり得ない反撃に転ずることを断念させるよう考えている可能性がある。イニシアチブを取ることに躊躇しない相手に対して、危険の多い打算である。

新たな朝鮮戦争になるのか。疑うまでもなくそれは違う。「新たな」戦争など語る前に、その前の1950年から53年の朝鮮戦争をすでに終わらせていなければならなかったわけで、その戦闘行為は、平和条約が締結されていない休戦協定によって中断されているのだ。それ以来、両国軍は38度線上の非戦闘地域を挟んで臨戦体制で対峙している。北朝鮮の周囲の諸大国は、軍事介入があった場合のフラグを立てている。中国共産党の見解を反映している月刊紙グローバル・タイムズを信じるなら、北朝鮮側からアメリカを攻撃するようなことになっても中国は介入しないが、逆の場合には腕を組んだまま傍観はしない。この二カ国は友好協力相互援助条約を結んでおり、それは1961年に締結され2021年までは失効しない。ロシアは、短い国境線で北朝鮮に面しており、中国と同様にこの体制が不安定になることは避けたいという関心を抱いていて、ロシアにもまたその主張がある。韓国では、ムン・ジャエイン大統領が、ある種の拒否権を持ち出して、自分の同意がなければいかなる北朝鮮への介入もあり得ないと宣言した。

アメリカと北朝鮮とが万一戦争となった場合の成り行きは、軍事力のバランスを見ればほとんど疑うまでもない。しかし、イラクアフガニスタンの紛争では、軍事的に戦争で「勝利し」ても、勝利者側にとっては苦境となりかねないことを示している。況んやその国民が民族的にも文化的にも均質で、精神的に追い詰められ、あらゆる外国からの介入を理屈抜きで拒絶しながら維持されてきた国家においてをや。なるほど体制はその存続に賭けるが、国民の精神の中ではその存続は民族そのものの存続であるとみなされる。これは洗脳か?疑うまでもないが、しかしその脅威が体制を強化するだけであることを無視はできない。ましてや軍事介入などあろうものなら。


軍事的「勝利」のもたらす苦境
体制を入れ替える可能性は?これはブッシュ政権が公然と追求した目標だった。制裁を強化することには、今でもこうした魂胆がある。この国を締め付けることは、国民の不満を助長することに期待しながら経済的にどうにもならない状況を作り出してしまうことになる。1990年代後半の飢饉の災難がもたらした忍耐から20年あまり、この国を締め付けようとはしてみたが、苦境になるとますます体制の支配が強化され抑圧されてきた国民が、さらに劣悪な状況でも抵抗できることを実証してしまった。

アラブの春」の北朝鮮版に期待できるのか、これは最もありそうにない仮説である。ヴィクター・チャのようなワシントンの「タカ派」と同様に、今度の在ソウルアメリカ大使もこれを認めている。国民が活動するにあたって主要な役割を果たすのは、他の地域では水平方向の通信網なのだが、それがないために国家に楯突くことが未然に防がれている。不平不満の表明は散発的で、封じ込まれている。それは地方の党幹部や警察に向けられていて、体制には向かおうとしない。

エリート層による革命の可能性は?彼らは今のところ権力とべったりで、それが確信的であったとしても、トップへの裏切りの嫌疑をかけられることを怖れてであたとしても。体制の首を落とす、言い換えればキム・ジョンウンを暗殺する可能性は?これは韓国政府のタカ派が温めてきたもので、そこでは軍の特殊ユニットがこの任務を課されているらしいのだが、しかるにアメリカ政府では、それが本当にうまくいくとするなら、この作戦には当然望ましい効果はないであろう。

その理由がどうであれ、体制の崩壊は二つの重要な未知の要素をともなうだろう。キム・ジョンウンを引き継ぐ者が、外国からの要求をこれまでより受け入れやすくなるのかどうか。リーダーシップを取るには、疑うまでもなく彼はさらにずっと反抗的な国家主義を発揮しなければならないだろう。二つ目の未知の要素は、体制の瓦解がもたらす混沌の中で、核兵器がいずれの手中に落ちることになるのか。当然の結果ながら、拡散していくというリスクの増加をともなう。北朝鮮のケースが複雑であれば、体制を動揺させるような出来事をうっかり始める前に、我々が現在知るよりもさらにもつれた状況を作り出してしまうリスクについて、再三にわたってよく考えることになる。
(Le Monde紙社説 2017年9月17日)