トランプとキム・ジョンウンがエスカレートするリスク

日本と韓国が、進行しつつあるアメリカと北朝鮮の衝突を懸念している。


朝鮮半島沿岸への空母カール・ヴィンソンを主力とした1艦隊の派遣は、韓国と日本に不安を巻き起こしている。4月15日は北朝鮮民共和国の創始者キム・イルスンの生誕祭であり、その日には一般的に北朝鮮による軍事パレードが行われるが、それに先立ってピョンヤンとワシントンとの腕相撲のための準備が整った。この後には最大規模の米韓年次軍事演習が行われることもあり、北朝鮮政府はこれは侵攻の準備だと受け取っている。当然の結果として、この地区の緊張の新たな火種である。

今回の、空母一艘とミサイルランチャー駆逐艦2艘、巡洋艦1艘の展開は、アメリカによるシリアの空軍基地の攻撃の数日後に行われた。これは北朝鮮政府への明確なメッセージである。合衆国は軍事行動の選択肢も排除しないのだと。米軍司令部によれば、半島沿岸の海軍航空隊の展開は、「北朝鮮の挑発」を考慮した「警告の手段」である。4月10日に北朝鮮は「アメリカの侮辱的な行為がもたらすであろう悲惨な結果は、アメリカに全面的に責任がある」と反論した。

4月6日のシー・ジンピン中国国家主席によるフロリダ訪問の翌日、合衆国国務長官レックス・ティレーソンは、「もしも中国が、北朝鮮の核の野心を食い止めるために我々と連携できないなら」、合衆国は単独行動も辞さないと述べた。この週末にはCBS系列に、シリアへの軍事行動は「危険性を示す国々には、相応に予期していただかなければならない対応をするというサイン」であったことを明らかにした。

北朝鮮外務省は、その声明でシリアへの襲撃を「許しがたい攻撃」と呼んだ。この攻撃は、北朝鮮の首脳たちに、アメリカの攻撃に対する防御となるのは抑止力ぅだけだと示した。そして北朝鮮は、軍事力の強化を続けると発表した。1950年から53年にかけての紛争は停戦によって終わったが、これを受けた平和条約はなく、朝鮮半島は戦争状態のままである。

今回のアメリカ軍の作戦は、中国政府へのメッセージでもあると、政策研究大学院大学朝鮮半島安全問題の専門家 ミシシタ・ナルシゲは考える。「合衆国は、中国に対して、朝鮮問題についてこれ以上協力しないなら、この地域におけるアメリカの軍事的プレザンスを高めることになる、とはっきりと伝えたいのです。」


「もう何も怖くない」
しかるにシー氏は、フロリダ滞在中の28時間に北朝鮮問題については大したことを言わなかった。具体的な進展がなかったことが韓国政府を不安にさせた。韓国政府外務省は、「中国とアメリカの関係の発展を助長しうる、どちらかといえば成功であるような」会談を高く評価していた。北朝鮮問題については、それが何ら具体的な確約を伴わなかったとしても。

北朝鮮政権は、さほど動揺していないようだ。「敵の軍隊が、シリアに対する攻撃は警告であると言おうが、我々はなにも怖くない」と北朝鮮は明言する。専門家たちは、朝鮮半島の北東にあるプンゲリの核実験場の周辺で、ここ数週間に活発な動きがあると指摘している。北朝鮮民共和国は、6回目の核実験、もしくは長距離弾道ミサイルを試射する可能性がある。その時、アメリカ政府の反応はいかなるものとなるのか。

アメリカが先制攻撃をすると北朝鮮に反撃の理由を与えてしまうため、そのリスクは小さいです。キム・ジョンウンは、この点をとても信用しています」とマシシタ・ナルシゲ(*ママ)は続ける。そんなことをすれば、それが北朝鮮の反応の最初の標的となる韓国や日本に招く結果のために、韓国と日本の政府ではそれはずっと非現実的な選択肢だと考えられていた。「トランプ大統領に関しては、もはやこういう展開も考慮に入れざるを得ない」とセジョン研究所のCheong Seong-Changは考える。アサイ新聞が引用した日本の防衛省のある責任者によれば、「アメリカがもしも攻撃を計画するなら、韓国と日本はアメリカに対して全力でそれを阻止します」。

ワシントンの意図は、いまだにあまり明確ではない。シリアにおけるアメリカの攻撃をうけ、日本は北朝鮮への警告に満足し、アメリカ政権を支持すると表明した。しかし、日本は、アメリカの行動は北朝鮮が自国を犠牲としかねない反応をするリスクとなるのに、そのなすがままだと感じている。「シリアの攻撃を賞賛しても、日本の安全保障に対しては何の影響ももたらしません。これは、北朝鮮との事件ではないのです」と日本のある外交官は主張する。


「最良の叡智」
合衆国の軍事行動のために、ソウルもやはり大きな騒動となっている。国家を分断されており、何よりも関心のある安全保障問題に関して一切のイニシアチブを与えられなかった韓国は、またもや自らを無力だと感じている。5月9日に予定された大統領選挙キャンペーンの最中であった韓国政府は、今回のアメリカの措置にもちろん驚いている。

この大統領選挙で最も有力な位置にある、現在野党である民主党ムン・ジェインは、繰り返しこのフラストレーションを表明している。「トランプ氏とシー氏は、私たちには相談せずに議論している。完全に独立した立場で議論を推し進めなければならないのは、私たちである」と彼はル・モンド紙に説明する。彼は、衝突ではなく対話に基づいた、北朝鮮と差し向かいでの新たなアプローチを主張している。

北朝鮮に関して韓国のマスコミは、政府からアメリカの意図に関する情報がなく、さらにはそれを首脳が得られないことを不満に思っている。チュンアン紙は4月10日に、「何が起こっているのか政府は説明しなければならない」と記している。この保守系の新聞にとって、現状は、クリントン政権北朝鮮の核施設への爆撃を検討した1994年の状況を思い起こさせる。この日刊紙は、「最良の叡智を発揮する」よう呼びかける。中道左派ハンギョレ紙はとしては、「トランプ政権は、今にも朝鮮半島に戦争にをもたらしそうだ」と懸念している。
(Le Monde紙 2017年4月12日)