「慰安婦」:東京とソウルは歴史的な係争を見切り処分する

韓国政府にとって、それは日本との「相互関係を改善するにあたっての主要な障害」であった。1930年から40年の大日本帝国との戦争の期間に、軍による支援を受けた性奴隷システムの犠牲となった、朝鮮、中国、もしくはオランダの数万人の女性を婉曲して表現する「慰安婦」と呼ばれる辛い問題は、アメリカの東アジアの2つの同盟国が落ち着いた穏やかな関係を維持することを妨げていた。12月28日に発表された今回の合意は、もろもろのどん底の関係を改善するものでなければならない。

韓国大統領 パク・クネとの電話による対談で、日本の首相 アベ・シンゾウは、この問題に対して「心からお詫びと反省」を表明した。この合意は、二カ国が「新たな時代」に入ったことを示している、と彼は強調した。

この二人の指導者の就任後初の会合となった、11月2日のアベ氏との首脳会談において、パク氏は「慰安婦」問題の解決の重要性を繰り返していた。彼女は、日韓外交関係50周年目であり、日本による半島支配が終結して70年目となる、2015年が終わる前に、何らかの解決に至ることを希望していた。

「最終的かつ不可逆な」として提示された今回の合意では、ある基金が設立されることを韓国政府が想定している。実質的には、日本から10億円を「一括払いで」受け取り、岸田外相によれば「全ての元慰安婦の名誉と尊厳を回復し、心の傷が癒され」なければならない。56名の生存者がその対象となる。


「傷を癒す」
隣人であるこの2カ国は、「この問題に関して、国際社会、特に国連の場で互いに非難・批判することは控える」ことを想定している。韓国政府は、2011年には日本大使館の前に「慰安婦」を象徴する像を設置し、被害者の会との対話にも取り組んでいる。日本政府はこれを、尊厳が毀損されるとして撤去されることを希望している。

国連事務総長の韓国のバン・キムンは、東アジアにおける同盟国である主要な二ヶ国の不仲を懸念しているアメリカと全く同様に、締結された同意を歓迎した。国防省の広報官マーク・トナーは、そこに「過去の傷を癒していく」手段をみている。

両国の政府によってこの同意が有効となれば、米国スティムソンセンターのタツミ・ユキが考えるには、「今回の合意によって、外交上の取り決めにおいて、さらに両国の関与する安全保障上の問題での協力において主要な障壁となっていたものがなくなるでしょう。」これは特に北朝鮮に関する。タツミ氏によれば、これは同様に「日本と韓国の和解に向けてずっと待ち望まれてきた第一歩である」。


日本のニクソン
この問題点は、二人の首脳にとって増大していた政治的リスクを直撃したように思われる。熱烈な国粋主義者であり、強い歴史否定主義の流れに支持されたアベ氏は、「慰安婦」問題に関して表明されてきた非難に対して、しばしば異議を唱えていた。1993年に「心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ち」を表明した当時の官房長官、コウノ・ヨウヘイの談話を批判していた。この文書では、軍当局による関与が認められていた。

手始めに2006年から2007年にちょっとだけ政府首脳となった際に、アベ・シンゾウは、女性の募集において軍の強制があったことには「明白な証拠」がないと言い始めた。2012年末に政権に復帰した頃から、彼はコウノ談話の修正を主張し始めていた。2014年6月にある文書によって、コウノ談話は未検証の証言に基づいており、韓国人外交官の援助によって起草されていたことが明らかになった。1996年には、国連に対して「慰安婦」問題に関する報告書を修正するよう要求がなされ、そして却下されている。

この問題に対するアベ氏の手のひら返しは、このことによってその現実主義路線に対して「日本のニクソン」と呼ばれるに値するのだが、それは中国の野心を阻止するという今回の合意のもつ意図に呼応したものであり、しかし同様にアメリカからの圧力にも対応している。アベ・シンゾウは、彼の官庁の一部にある強硬な国家主義者が、活発な交渉を妨害していかないことを確認しなければならないだろう。

中国政府からの批判にも、彼は同様に答えなければならないだろう。中国人の「慰安婦」が含まれていないことに対して首をかしげていたため、中国は今回の合意には反応している。中国外務省の報道官、ル・カンは、女性の強制徴用は、「人間性に対する日本軍の重大な犯罪であった」と述べた。

韓国国内での人気に陰りをみせているパク氏は、「慰安婦たち」やその支持者たちに今回の合意の正当性を説得していかなければならなくなるであろう。批判家たちは、今回用意された予算額の慎ましやかさや、すでに死去した慰安婦の家族が除外されていることについて、とやかく言っている。彼らは、日本政府はこの悲劇における「法的責任」を認めていないとも訴えている。結局、合意文書の「最終的な」局面は、行政の変化如何によることには変わりがない。
(Le Monde紙 2015年12月29日)