2022年国民議会選挙: 第一次投票の1週間ばかりで、マクロンの政党内に不安が高まった

2022年国民議会選挙: 第一次投票の1週間ばかりで、マクロンの政党内に不安が高まった

 

共和国前進」の候補者たちは霧が立ち込めた中にいるように訳がわからず、メランションが首相府にやってくるかもしれないという懸念を利用したり、投票現場の風潮が自分達の利益になると当てにしている。

 

一点の疑惑が陰をさすようだ。4月の終わりにエマニュエル・マクロンが再選されたその翌朝、彼の側近たちは国民議会選挙を型式的な行為になるものと考えた。その時に「共和国前進(LRM)の戦略は、2つのシナリオを見込んでいるようだ。一つは「夢」で、そこではLRM単独過半数(289議席)を獲得できる。それによって政府は、目をつぶっていても彼らの法案が採択される保証が得られる。そしてもう一つは「悲惨な結果」で、相対的な過半数となり、そこでは同盟政党である「民主運動」や「オリゾン」などからの支援をあてにしなければならなくなってしまう。フランソワ・バイルやエドゥアール・フィリップの政党の当選者たちに譲歩しなければならなくなるリスクがある。

 

その1ヶ月半後、612日と19日の投票日が近づくにつれて、情勢は暗くなった。一次投票の5日間で、エマニュエル・マクロンの陣営はまだ楽観的ではあるものの、しかし単独過半数を獲得できるかどうかはわからないままだ。大統領陣営が世論調査に認める衰退は進行しつつあり、大統領の側近たちは、以後は縮小過半数となることを懸念して、その野心を入念に下方修正した。それどころか、数週間前には想定外だった敗北でさえも、しかし今では大統領府はそれを「起こり得ないことではない」と判断している。

 

国会担当大臣オリヴィエ・ヴェランが、未来の国会が、「共和国大統領が選ばれた方針とは一致しない」ことになるかもしれないと言うならば、「民主運動」の議員団長パトリック・ミニョーラは、「選挙で不測の事故が起こる恐れ」があることを自ら認めており、この政党はそれほどに2017年よりもこじれそうだ。この共和国大統領が政権に就いた当初、彼は共和国前進313議席および民主運動47議席という圧倒的過半数を手にした。今日では、マクロン氏にコアビタスィオンを余儀なくさせるという意図をもった、「新人民連合・環境・社会」(Nupes)のトップであるジャン=リュック・メランションが率いている攻撃が、この情勢を変えている。

 

「彼らか私たちか」

この新たな集団には、「フランス不服従」、「ヨーロッパエコロジー緑の党」、「共産党」と「社会党」が加盟しており、それが大統領陣営の主要なライバルとして登場した。66日に公表された、在外邦人で行われた国会議員選挙一次投票の結果が、この対決をわかりやすく示している。マクロンの政党の立候補者たちが多数決によって首位となったならば、マニュエル・ヴァルスは例外として、この左翼の連合は11のうち10の選挙区で第二次投票の参加資格を得ることで、その突破口を実現する。2017年に比較すると倍増になるかもしれない。マクロン陣営の中に、不安どころか猜疑心の風を引き起こす理由である。

 

Nupesの活力、「それは競合を作り出している。それは選挙を二極化し、この選挙は「彼らか自分たちか」になる」と「共和国前進」の国民議会グループの総長で、イヴリーヌ県の候 補者のオーロラ・ベルジェは考える。彼女はメランション氏が代表となる脅威を「深刻に受け取っている」という。彼女によれば、 「野党の中で、今日存在する唯一の人物」なのである。なかなか群衆の心をとらえられないこの陣営のなかで、昨日にはたやすい被征服者と思われていた選挙区が、今日にはマクロンの政党にとって微妙に思われる。マクロンの政党は259の激戦区において左翼と対決することになるだろう。

 

すると、国民議会における新たな勢力関係は、これらの対決の成り行き次第となる。イプソス・ソプラ社がル・モンド紙のために行い523日に公開された世論調査では、今のところ予想得票率では大統領与党(28%)Nupes(21%)は、国民連合(21%)に対して結託した状況にある。しかし、投票箱が下す評決はいまだに予測が難しく、それは議席の配分が国家のレヴェルにおいて、選挙区によって非常に異なる均衡をもった地方選挙の577議席に依存しているからである。彼らが自ら打明けるところでは、先の読めない選挙を取り返し、「霧が立ち込めた中にいる」マクロン支持の立候補者たちを議席につかせるために必要なもの何か。

 

2年間のCovid-19を経てフランス国民の大部分が疲弊したことが原因となり、この国で「発泡性」とされている一般情勢によってさらに不確定なものとなっている要素については、ウクライナにおける戦争やインフレによって世論の内部に不安が広がっていることが原因となった。さらにその不安には、この1ヶ月間、内政の場にほとんど顔を出さなかった国家元首が加わっており、彼は楽な状況にあったわけではなく、エリザベト・ボルヌの目立たない首相デビューや、同様にいくつかの政治的論争(ダミアン・アバドに対する強姦の起訴や、シャンピオン・リーグの最終戦の際のスタド・ド・フランスの不祥事)もあった。そしてゲームは予測されていたより、さらに予想できないものとなっていた。

 

「中道勢力」である利点

安心するために、大統領陣営は何枚かの手持ちの切り札を繰り出した。マクロン政党の人々は、彼らの投票者がNupesよりも年齢層が高く、都会的でもないだろうとしている社会学が適用できると当てにしており、それゆえあまり棄権もしないだろうと踏んでいる。選挙人名簿に登録された人数に対して12.5%の票、そしてそれゆえ調査会社がいうようにフランス人の2人のうち1人だけでも投票するならば、約25%の票を獲得する候補者だけが、第2回投票に残るので、「共和国前進」の立候者たちは、投票の際の風潮がおそらく彼らを有利にするだろうとも信じたい。「極右との対決では、左翼の有権者たちは私たちに投票するでしょう。極左に対しては、右翼の有権者が私たちに投票するでしょう」と、ある大統領顧問は、そこに「中道勢力」であることの利点を見いだすことによってそう信じたい。

 

Nupesに対して、与党の候補者は、メランションを「危険な」極左主義者だとするコケ脅しをちらつかせて、穏健な有権者の票も取り込もうともしている。「もはや左翼には社会党緑の党の人間もおらず、メランション支持の候補者だけだ。彼らはヨーロッパ連合NATOからの離脱に賛成、共同体主義にも賛成しており、警察と曖昧な関係を維持している。私たちの有権者にとってはこれが越えてはならない一線だ」と、「共和国前進」の書記長で公務員大臣のスタニスラス・ゲリニは考え、彼はパリ市長に立候補している。エソンヌ県のマクロン党の候補者 ポール・ミディは、「私はみんなに、自分はジャン=リュック・メランションの候補者のセドリック・ヴィラーニに対抗する、エマニュエル・マクロンの候補者であると説明して、プロジェクト対プロジェクトを行なっているのです」と証言する。ヴィラーニ氏自身も「共和国前進」の出身者だった。

 

「フランス不服従」の指導者が首相府を手に入れかねない、ということが引き起こす懸念を悪用しようとするのはやめて、経済相ブルーノ・ラ=メールは彼を「ガリアのChavez(?)になぞらえた。「私の選挙区では、右翼の有権者たちが、メランションが首相になるのを避けるために大統領与党に結集しています」とオーロラ・ベルジェは説明する。もう一つの議論としては、メランションへの投票はコアビタスィオンへと、そしてそれゆえにマクロン氏が大統領府で延長した計画を実行に移すことを妨げることによって国家の「停止」へと通ずるような選択であると示すことである。

 

大統領自身は、短かかった勝利が、与党を内部の強い動揺に晒したりしていることを知っていて、息をひそめている。国内の戦場を離れていたあと、彼は2回の出張で地方に赴き(531日に厚生問題、もう一つはその2日後に教育問題)、そして63日の地方紙では、フランス国民に「ジャン=リュック・メランションやル=ペン女史の騒乱と服従のプロジェクト」に対して、「安定して信頼できる与党」を選択するよう呼びかけるインタヴューに従事しただけだ。我々が得た情報によれば、大統領は今週さらに2つの出張を実行する予定であり、一つは68日にイル・ド・フランスで若者を中心としたもの、もう一つはその翌日に地方で日常の治安を中心としたもの()。最後の直線コースでのこういう加速が、有権者を動かすのに十分であるのか、見なければならない。

(Le Monde紙サイト 202267)