アベ・シンゾウの靖国神社参拝以来、中国は機嫌をなおさない。 (Le Monde紙 2013.12.28.)

 東京の靖国神社は、祖国のための殉死者を顕彰する施設であり、このためにいろいろな議論を招く施設でもあるが、12月26日にアベ・シンゾウがこの施設に参拝したことにより、これが中国国内での抗議を引き起こし、強い非難の声が降り注いでいる。日本と中国との関係はすでに冷え切っており、北京はことあるごとに日本の軍国主義への回帰を告発し、また日本が実効支配し中国もその領有権を主張している尖閣諸島周辺における戦略を正当化しようとしている。
 日本は、アジア諸国アメリカからの強い批判にもさらされている。中国にとって、この展開は「皮肉でも利益がないわけでもない」(?)。ひと月ちょっと前に中国は、一方的なやり方で尖閣諸島を含む広い防空識別圏を設定し、北京はこのため太平洋西沿岸諸国から非難されていた。中国はこの地域の大使を何人も政府に呼び出し、その批判に激しく反応していた。

ー 新たな重大な障壁
 それでも29日朝に英字日刊紙Hongkong South China Journalは、アメリカ政府による日本への強い批判が行われたことを受け、中華人民共和国要人サイドの「停戦」を報じていた。アメリカ政府は、アベ氏に靖国参拝を思いとどまるよう説得を試みていた。日本政府首相による靖国神社参拝は、2006年のコイズミ・ジュンイチロウ以来のことである。靖国神社には、国家のために犠牲になった者だけではなく、連合国によって有罪とされた14人の戦争犯罪者が顕彰されている。アメリカ政府は、このような行為が緊張を悪化させていくのだと考えていた。そして、あるアナリストたちは、中国にはこの二つの同盟国間の不和を利用する十分な理由があると考えている。
 26日のアベ・シンゾウの靖国参拝をうけて、在中日本大使が中国政府に召喚された。中国政府外務大臣Wang Yiは、毎年のように靖国参拝をしていたコイズミ・ジュンイチロウ政権時代には駐日大使であり、当時は二国間の関係改善に努力していたのだが、今回は日本を叱責し、アベ・シンゾウの行為を「すでに張りつめた中国と日本との関係において、新たな大きな障壁を作り上げた」と宣言した。
 内閣官房長官からは、アベ氏の参拝は「私人」の資格で行われたものであったとの説明がなされたが、中国は機嫌を直さなかった。中国外務省スポークスマン、Hua Chunyingは28日、「それは偽善であり、良心の欠如であり、弁解である」と強調することで、自分たちの主張を明らかにした。

日本製品のボイコット
 発行部数を誇る日刊紙Huanqiu Shibaoは、えてして国家主義的な論調を採るが、前日に自社にて行われた世論調査をもとに28日朝「人民は日本に対する断固たる態度を望む」と呼びかけた。その世論調査では、回答者の70%近くがアベ氏の参拝に対して「怒りを覚える」「憤りを感じる」と回答しており、そのうち67.7%が日本製品をボイコットしようと言っていた。
 同紙は27日の社説にて、靖国参拝を行ったことがある日本の政治家のブラックリストを作成し、その政治家を今後5年間にわたり中国に入国させないことを提案していた。中国政府は、張り子のトラが出てくるような突拍子のない事態は困るので、アベ氏の挑発に対して必要な対抗処置をとるに違いない。
 中国は得てして日本に対する教訓を与えてくれるが、しかし中国は火遊びをしすぎである。中国政府は、人民の過激な感情を煽ることをやめない。そして、政府サイドのやる気のないそぶりが、ネット上の論調をさらに加熱し、体制によって承認され厳しく監視された形での街頭デモを組織させる。Stephanie Kleine-Ahlbarandtによって定義された概念にreactive assertiveness*があり、これはいわば難しい局面を利用して現状を有利な状況に変えることであるが、これでは今回の靖国参拝は、中国政府とその「ゴネ得*」戦略を祝福するためのパンなんじゃないかとでも言ったほうがマシである。