議論のあるイギリスのウイルス戦略

政府は、国民が自分たちで免疫をつけていけばいいと思っている

 


イタリアやフランス、スペイン、ベルギー、デンマークは現在停まっている。学校やカフェ、必要不可欠ではない商店は閉鎖した。ドイツは、今回の広域流行を遅らせその医療システムの崩壊を避けるべく、オーストリアなど多くの国々との国境を封鎖している。3月15日のイギリスには、こういったことは一切なく、 まだ政府から出された二つの勧告があるだけである。両手を洗いましょう、コロナウイルス感染の徴候があったら7日間部屋にこもりましょう。しかし、ボリス・ジョンソンにはどういう勝算があるのか。ここ数日間、首相官邸からの通達は混乱しており、それと同時にこの首相への批判が増え続けている。


13日朝、政府のチーフ科学アドバイザー パトリック・ヴァランスは、この国の主要なテレビ局で公的なアプローチに関して詳細に述べた。59歳の巨大な製薬会社グラクソスミスクラインの研究開発の前チーフは、ボリス・ジョンソンが意思決定するにあたって頼りとする科学的な権威の1人である。ヴァランス氏は「集団免疫」という概念を主張しており、彼にとって「すべての者がこのウイルスにかかることを避けられない」のである。国民が相当の免疫を獲得することが必要なため、それは望ましくもないのである。


それゆえ彼によれば、イギリス当局の目的は、このウイルスを「排除する」ことではなく、次の冬に来る2度目の流行のピークを避けるために、その拡大を制限することである。とりあえずヴァランス氏によると、今後の流行を避けるためにイギリス国民がこの集団免疫を発揮するには、国民の約60%がこのウイルスに感染することが必要である。この国には6600万人強の住民がいると知られているので、つまり4000万人のイギリス人がこのウイルスに感染することになる。彼らの大半は軽症型の疾患になるだけだとしても、それでも何百万人(600、700、800万人?)には重要化するリスクがある。それはつまり、イギリスの公共医療制度であるNHSは利用可能なベッド5000床を再生中だが、すぐにも溢れてしまうということだ。


この選択について、とりわけジョンソン氏が国民に、かなり多くの「愛される人たち」を失うことを覚悟することになりかねないと警告したことを受けて、疫学者、医師、政治家や批評家たちがコメントしている。その理由としては、大量の生命が危機にさらされており、ヴァランス氏の論法では、1%と想定されているCovid-19の死亡率から、この国で起こりうる死亡事例は約40万人である。


「懸念のある」政策

テレサ・メイ政権で厚生大臣だった保守派の議員ジェレミー・アントは、3月12日に最初に突撃ラッパを鳴らした人々の1人である。この政策には「懸念がある」と判断する彼は、ボリス・ジョンソンの政府がいまだに大規模な集会を禁止しなかったので驚いていた。ヴァランス氏は13日にBBCで、スタジアムにいるよりパブにいた方がよりこのウイルスをもらいやすいのだと断言した。


医学に関する世界的な参照文献である科学雑誌ザ・ランセットの編集長リシャール・オルトンは、別のところで「政府は国民でルーレットをしている。大きな間違いを犯している」とツイートした。


13日にはWHOも、グローヴァルなアプローチの必要性について求めている。「ただ単に検査をし、疾患をトレースし、隔離や社会が感染源から距離をとることが必要なのではない」とWHO事務局長テドロス・アダノン・ゲブレイェスは断言した。「この政府の戦略は他の国々のものよりさらに周到で、非常に有効なものかもしれない。しかしそれは同様にまだいくつかの仮説に基づいていて、よりリスクも高い」とリヴァプール大学社会学教授のイアン・ドナルドは一連のツイートで強調し、それは13日夜に何千回もリツイートされた。


しかし、政府は重症患者たちが救急施設に押し寄せるのを制御することができるのだろうか。イアン・ドナルドは「(政府は)流行の進行に関して良い結果を出さなければならない」と主張する。もっとも弱い人々を守る措置をどう考えるべきなのか。13日に新たに出されたNHSの勧告は、老人ホームへの訪問を制限しましょうというだけだった。イアン・ドナルドは、イギリスの戦略は「おそらく最良なのだろうが、政府はもっと明確にそれを説明しなければならない」と締めくくる。他にも、人々がワクチンよりも集団免疫に賭けることに驚いたり、ウイルスが変異した場合でもこの公的戦略は大丈夫なのかと危ぶむ人たちもいる。


15日夜には、250人以上のイギリスの研究者たちの誓願書が広がり、ボリス・ジョンソンは、もっと革新的な社会全体が感染経路から距離を置く措置を「即座に」とるよう要求した。しかしながら首相官邸は、テレビ局ITVに、いつでも彼はより効果覿面な措置を取りますとリークした。とりわけそれは、「70歳以上を、自宅で最低でも4ヶ月間」隔離措置に置くことである。「私たちは、これから数週間以内の適切な時期に、それを行うべきとなった時に行いましょう、そして私たちの決断は科学に基づいていることになるでしょう」と厚生大臣マット・アンコックは15日朝にBBCのスタジオで、メインジャーナリスト アンドリュー・マールから促されて断言した。


「生命を守る」

またアンコック氏は、「集合免疫は私たちの政策ではなく目的なのだ」と断言する。「私たちの目的は生命を守ることである。」またさらにアンコック氏は、企業経営者たちに「国を挙げた努力」を求め、彼らに可能な限りの人工呼吸器の作製を求めた。彼は、NHSが使用できるこの精密機器は、国家規模で5000台しかないことを明らかにした。


「私たちが個人の間で相互作用を減らすことが即座に行われなければならず、それは経済面では恐ろしいことになるでしょうけれど、それはこの流行をNHSが管理しうるものにすることにもなるのです。政府の今回の戦略は、思慮を欠いた無責任なものです」とアーヴァード大学の疫学者ウィリアム・アナゲはル・モンド紙に説いた。15日のガーディアン紙に、彼はイギリスの人々に向けて次のようなアピールを出した。「パニックにならないでください、でも用心してください。もしもおたくの政府があなたたちを援助しなくても、自分自身で行動してください。」


イギリスの人々が疑い始めた徴候として、14日にはロンドンのスーパーマーケットに人々が殺到し、パスタや石鹸やトイレットペーパーの棚がの大部分が空になった。自宅への配送も、もう8日先まで空き枠がないようだ。15日夜に駐英フランス大使は、その所属教育施設を16日夜に閉鎖し、遠隔授業に移行すると発表した。他のイギリスの学校は、次の指令まで閉鎖されない。

(Le Monde紙 2020年3月17日)