なぜCovid-19の症例数が低下しているのか
なぜCovid-19の症例数が低下しているのか
Paul E. Sax (Contributing Editor: NEJM JOURNAL WATCH INFECTIOUS DISEASES)
その理由は分からない。そこのところは分かりやすい。
現実的に症例数が減少しており、それは検査数を減らしたからではなく、まさにいたるところで起こっている、これも分かりやすい。
都市部でも地方でも。共和党支持の州でも民主党支持の州でも。ワクチン接種が広く展開されたところでも、ほとんど始まっていないところでも。北アメリカも南アメリカも、アフリカもアジアも。B.1.1.7変異株がある国々でも。
これを見てほしい:
Source: 91-divoc.com/pages/covid-visualization/, downloaded 21 Feb 2021.
いくつかの説を概観してみよう。
① 季節性
魅力的な仮説で、SARS-CoV-2以前のコロナウイルス感染症が季節性のパターンを示したことは確かなことだ。
そして、さまざまなウイルス感染症が、特に学校が始まったり気候が寒くなってきた時などに季節とともに変動して、いくつもの町を席巻した。こう小児科医ならば誰でもいうだろう。
「季節性」という専門用語がちょっと誤解されやすいことには注意が必要で、それはいくつかの季節のあいだにピークとなる感染症のことで、いくつかの季節のあいだずっとピークのままのものではない。インフルエンザを考えれば、冬の始めやときには冬が終わる頃に1つの季節的ピークとなることがをちょくちょくある。この季節性という説には、四季は南半球ではひっくり返っているという問題点がある。そして合衆国の南の州では夏に症例が急増したところが多くなかったか。
②集団免疫
CDCは、2800万人近くのアメリカ人がCovid-19との確定診断を受けているという。これは実際の症例、特に軽症例や無症候症例の一部分に相当し、CDCは報告される症例は4.6感染症例に1例と推定している。これはつまり、アメリカの人口では感染に対してある程度の自然免疫を有しているものが半数に及ぶということになる。
1月中旬以後でさえ、CDCは8000万人以上の症例数が存在しているとしたが、確かにそれは現在よりも高値である。そしてある地域では、現状の症例数はさらに高値、最近のある発表では5-20倍高値かもしれない。
③ 行動
私たちは、今やこのウイルスがどのように伝染していくのかずっとよく分かっている。密を避け換気の悪い室内を避ける、マスクをすればリスクが下がる。しかし、私たちの行動は実際にそれを踏襲しているだろうか。
年末の祝日が終わった。スーパーボールはひどいものだった。テニスのオーストラリア・オープンのファイナルではそんなにパーティーがなかった。春休みはまだ始まっていない。
感染症管理のアドバイスに最も従いそうにない人々、もしくは仕事と生活状況のために従えない人々は、すでにCovid-19を持っていて、それゆえ免疫がある。
それ以外の未感染の人々は、12月と1月に症例数が激増するのを見ており、このまま避難と安全に過ごすことを続ける、というか安全に過ごせる余裕がある。今やご存じのようにワクチンは彼らの遠くない将来にあり、虹の果てには黄金の壺、トンネルの向こうには光、モンティ・パイソンの映画の終わりには聖杯があるのであれば、彼らは今、なおさら用心深い。
④ ワクチン
世界中が狂ったようにワクチンを打っている。その需要は予定表からはみ出さんばかり。そしてたいがいのところでは、症状が出ていたり、重症の疾病となりそうな人々を標的としている。
加えて、ワクチンは疾病を減らすだけでなく、伝染しやすさも抑えることを示唆するデータが増えてきている。ワクチンは、感染症全体を減らし(未感染者には伝染させることができない)、感染症のある人々のウイルス分泌量はこれまでより低いのである。
ワクチン接種の展開は、これによって症例数が低下したと説明するほどには広まっていないが、それは貢献しているのかもしれない。イスラエルでは、確かにそれが役割を演じている可能性がある。
⑤ ウイルス
時間が経ってこのウイルスの感染力があまりなくなってきて、私たちに都合よく振る舞っているのかもしれない。これらの変異株が、B.1.1.7変異は別としても、伝染能力を得るべく病状があまりひどくない疾患もきたしている。
そう、一つのウイルスなって考えてください、ウイルスの展望としては、この方が進化として都合が良い。軽症の疾病の方が、他の感染しやすい宿主にその遺伝的物質を拡散するチャンスが多い。どんなウイルスも、ここにしか関心がないですよね。
⑥それはゲミッシュだ。
ゲミッシュ、これが私たちを症例数の低下の最もうまい説明に導く。ゲミッシュは物ごとの混ぜこぜを意味するイディッシュ語である(あなたが自分で発音しようと思うなら、それはガーミッシュと発音される)。
それは、上にあげた説明が、その割合はバラバラで場所によってもさまざまだが、誰も考慮しなかったものを加えて、その全ての説明でもありうる。
そして症例数が低下している理由に関する不確かさは、偉大なヘンリー・ルイス・メンケンのこの引用に再び立ち返る。これは時間をかけてこのような深い発言に姿を変えている:
全ての複雑な問題には解決法があり、それは単純かつ直接的で妥当なのだが、しかも間違っている。
なぜ症例数が低下しているのか分からないということについては、謙虚であることが重要だと強調したい。単純になぜかと言えば、これらの要素から他をおいて一つをあてにすればトラブルになりかねないからだ。例えば、今週Wall Street Journalに書いているマーティ・メイカリー博士は、私たちはすでに集団免疫に近いと推定して、次のような大胆な予測をしている。
この国が極端に低い感染水準に向かっていることを考えるのには理由がある。より多くの人々が、そのほとんどは軽症もしくは無症状で感染していたなら、これから感染するアメリカ人はより少ない。私は、現状のカーブを取るならばCovidは4月までにほぼ終息し、アメリカ人は正常な生活を再開できると予想する。
警告しますが、もしもあなたに自信たっぷりに、症例数が低下している明確な理由を知っているとか、4月までに私たちはこのパンデミックを安全に脱するであろうと映し出す正確な水晶の球でも持っているという人物がいたならば、仕方がないのでどうか科学的な懐疑的態度からよくそれを考えてください。
この楽天的な予想が正しければいいと思うことは可能です、私たちは誰もがそうなってほしい。4月は遠くない、すぐにそれは分かるでしょう。
しかし新たな人間の病気を通じてパンデミックから学べることが一つあるとすれば、それは私たちが知らないことは沢山あるということだ。
(NEJM Journal watch blogs 2021年2月21 日)