パリ五輪、ファラオが威信を誇示するような事業に公的資金を濫用することは思慮を欠き無責任である

パリ五輪、ファラオが威信を誇示するような事業に公的資金を濫用することは思慮を欠き無責任である

イザベラ・バルベリ、リュック・フェリー、ファビアン・オリエ、アニー・スジエ


イザベラ・バルベリ、リュック・フェリー、ファビアン・オリエ、アニー・スジエといったおよそ30人の知識人と政治家たちが、2024年オリムピックに対して苦言を呈している。それは、オリンピズムの理想を踏みにじる経費乱用と大気汚染の根源である



スポーツ担当大臣ロクサナ・マラシネヌによれば、Covid-19の世界的なパンデミーによる公衆衛生上の危機に伴い、66億ユーロと想定されていた2024年パリ五輪の予算は「コスト超過のしわ寄せを受けるであろう」。2012年のロンドンは、60億ユーロの追加支出(総額で320億ユーロ)、2016年のリオは230億ユーロの追加支出(総額320億)、2008年のペキンは290億ユーロ(総額320億)を余儀なくされている。2020年トーキョ五輪は、「予算制御モデル」として提示されたが、「簡素な」五輪とかいうまやかしを無効にしている。Covid-19による2021年への延期に20〜50億ユーロをつぎ込むことで、それは予算を激増させなければならない。その予算は、試合が終わるころには180億ユーロになってしまうかもしれない。


繰り返すなら、このスポーツの祭典の豪華な現実は、オリムピック神話からは食い違っているのである。パリ市長アンヌ・イダルゴにとって、オリムピックは「スポーツ連盟の事業にとどまらず、国事」にもなってしまった。この「若者の祭典」を台無しにするような不祥事が続いており、スポーツ連盟はそのために損なわれた「面目を一新」すべく、目下力を尽くしている。というのもスポーツ省による調査では、177件の未成年性犯罪に40の連盟が直接関与している。性的暴力の番付では、フランスのスポーツ界はおぞましい記録を保持している。


そこで、ある疑問が提起されなければならない。利権争い、贈収賄、蔓延するドーピングとその(個人もしくは国家レヴェルでの)犯罪経済学に長い間蚕食された「理想的なオリムピック」に、国家は従うしかないのか。フランス国民が蒙っている次から次へと起こる危機を食い止められないのならば、この国家には、オリムピックのパートナーシップや公式スポンサーから、財政の健全性を守る資格などない。


これまでのあらゆる五輪がそうであったように、パリ五輪は本質的に「多国間」オリムピック(国際オリムピック連盟)に利益を与えていて、それは労働法と都市計画をねじ曲げ、公的財源を使い込み、納税者から搾り取ることで、まさにGAFAM(Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft)のごとく振る舞う。「スポーツの価値」に関するありふれたキャッチフレーズで隠され、コミュニケーション・マーケティングの一大キャンペーンとして考案され組織された連盟の目的はといえば、IOCの商業的関心と公共空間の開発を正当化すること以外にない。


国家にはすでに重い負債があり、GDPの急降下、多くの企業の破綻、失業者数の大規模な増加が、優先されなければならない公共機関、医療、教育、高等教育や科学研究、公共交通機関といった分野への出資力を危うくしかねないのであれば、そこからさらに「我らが選手たち」の背後で讃えられる団結の名のもとで政治的な目眩しの操作として使用されるような、もしくはファラオが威信を誇示するがごとき事業に、公的資金を濫用することは思慮を欠き無責任である。


パリの大気汚染は、公式にこのフランスの首都を世界で最も有害な都市に位置付けている。「祝典を祝う」べく飛行機で訪れるだろう何十万人もの観光客が、すでに十分に混雑して劣悪でちょくちょく止まる交通網をどっと利用すれば、猛暑の8月の真っ最中に巨大な大気汚染のピークを引き起こすだろう。自称「緑の五輪」は二酸化炭素排出収支の記録を打ち立て、住民にとっては、いつものことだが、日々悪夢になるのであろう。


優先すべき需要

五輪の治安拠点には予算がついておらず、ロンドン五輪で明らかになったように、たいていそれは過小評価されているため、2024年パリ五輪が「魔法のような」もしくは「人間味のある」と仮定されていれば、そのための最終追加額は間違いなくかなり重く、イル・ド・フランスの住民たちはその主要な犠牲者となるであろう。(複数の経済学者によれば、2004年以来の夏の五輪の予算は、平均して3倍になっている。)


深刻なこの世界的危機の時期に、すでに限られた予算の財源を五輪カジノ経済に好きなように掠め取らせておくことはできない。財源は、この国家の優先すべき需要に充てられなければならず、それはスポーツショーとか派手なメディア露出であってはならず、そこでは選手たちはIOCの利益のための奉仕として自らを露出しているのだ。


それがスタジアムでの偽装された平和の祭典であると分かれば、伝統的に決まり文句となっているオリムピック休戦とか民族間の友好とかは嘘くさく聞こえる。ある民主主義国家でのメダル争いに参加し国際的な認知を手に入れるために、そこには全体主義体制、独裁制警察国家イスラム神権体制、専制君主国家の名誉ある選手団がやってくる。ヴェールを付けた女性たちがオリムピック競技を統合する(* des femmes voilées intègrent les épreuves olympiques)ことを受け入れれば、IOCはその憲章を無視して、世界的な大義である女性と男性の権利の平等を踏みにじる。


同様に私たちは、政治勢力労働組合勢力、市民団体、人権擁護協会、報道機関とそのジャーナリストたち、精神的権威の人々に、この2024年フランス五輪プロジェクトを非難するよう呼びかける。さらに進歩主義勢力にとっては、万人の万人に対する競争というオリムピック・ドグマとは異なった、文化的、エコロジー的、社会的、経済的なプロジェクトを、「次の世界」として推奨すべき時である。気候温暖化、環境と生物多様性の悪化、労働条件の荒廃、社会的格差、恵まれない人々の非正規雇用に対する闘い、そのいずれもが国家のあらゆる資源を動員し、オリムピックという戦争のショーに優先して是が非でも必要とならなければならない要請なのである。


Premiers signataires :

Isabelle Barbéris,maîtresse de conférences habilitée à diriger des recherches en arts de la scène,université de Paris

Jean-François Braunstein,professeur de philosophie contemporaine à l’université Paris-I-Panthéon-Sorbonne

Jean-Marie Brohm,professeur émérite de sociologie à l’université Paul-Valéry-Montpellier

Pascal Bruckner,philosophe et écrivain

Luc Ferry,philosophe,ancien ministre de la jeunesse,de l’éducation nationale et de la recherche

Catherine Louveau,professeure émérite de sociologie à l’université Paris-Saclay

Sophie de Mijolla-Mellor,philosophe et psychanalyste,professeure émérite à l’université de Paris

Robert Misrahi,professeur émérite de philosophie éthique à l’université Paris-I-Panthéon- Sorbonne

Fabien Ollier,directeur de publication de la revue « Quel Sport ? »

Laetitia Petit,maîtresse de conférences habilitée à diriger des recherches en psychologie clinique à Aix-Marseille Université

Françoise Schwab,historienne

Annie Sugier,présidente de la Ligue du droit international des femmes

Pierre-André Taguieff,philosophe et politologue,directeur de recherche au CNRS

Jacques Testart,biologiste et essayiste


(Le Monde紙 2020年9月16日 IDÉE欄)