「マクロンとは、緊急かつ不可避な例外的状況なのです」

フランス大統領選 エッセイスト ジャック・アタリはエマヌエル・マクロンを支持している。このフランスの知性が、この国の状況や「明日はもっと良い状況になりうる」と考える一つのフランスの希望について分析する。


ジャック・アタリ(73歳)は、経済学者、文筆家で知識人である。それゆえ我々がフランスにいるのであれば、論客でもある。彼はフランソワ・ミッテランの特別顧問でもあった。代わる代わる、そして同時に、彼はこれらのすべてであったのだ。ジャック・アタリは、進歩的なフランスの良心のあり方である。彼の冒涜者たちは、悪しき良心だというであろう。そういう人々も多い。彼の賞賛者と同じくらいに。あれこれと対談するため、私たちはパリの彼のオフィスに招かれた。彼は、エマヌエル・マクロンを公式に支持する人物の1人であり、マクロンは彼の助手だったのですよ。


何ヶ月か前、あなたはマクロンの政策案には中味がないと言っていました。あなたはその立場をかえたのですか。
変わったのは彼の方ですよ。彼は政治綱領を作り上げましたが、私はそれをとても気に入ってます。


それは、どうしてです。
この綱領には、「フランス22構想」(編注:フランソワ・オランドによる指示)のほとんどのポイントが入っているのです。この構想の経済の部分には、「経済成長を自由化する」という共通する要素を多数受けており、エマヌエルは私とともにこれの分担報告者だったのです。(編注:2008年ニコラ・サルコジによって指示された文書)。重要なテーマである、EUとか、移民とか、年金とか、保育園の重要性とか、制度的改革とか、政界モラルの強化に関しては、私は全く同じ考えです。


あなたのようなたくさんの知識人たちが、何年も推奨してきた思想が形となったのが、今回のエマヌエル・マクロンの台頭なのでしょうか。
忘れてはならないのは、彼自身がカリスマ的だということは事実なのです。フランソワ・フィヨンがあんなドタバタになってなければ、たぶんマクロンはあまり話題になっていないでしょう、それは右翼は与党だからです。フランソワ・オランドが立候補していても、情勢は変わっていたでしょう。だから彼には、こういう、やたらと運がいいという真の政治家としての資質もあるわけです。あなたの言うとおり、この25年なり30年間にみられた現代的なスタイルの思想が、現在、形となっています。個人的には誰もがそう思っているのですが、しかし誰もそれを口にしようとは思いません。彼が勝利しているなんて言う人はいません。そんな状況からはかけ離れています。彼が勝利するのか、私には全く分かりません。(*本稿は4月21日公開)


ある世論調査では、エマヌエル・マクロンはポジティブな願望の流れをとらえているようです。
そうですね。候補者には、以前は良かったと考える人たちもいます。そして、明日はもっと良いだろうと考える、ある候補者もいます。


あなたは、彼の経済政策は信頼できると思いますか。
信頼できます、彼とJean Pisani-Ferry(編注: Science-Po経済学教授で首相諮問機関France Stratégieの前所長)が入念に作りあげたものだからです。他の政策案などイカれたものです。真に信頼できるのは彼の政策だけです。


ではフランソワ・フィヨンの政策綱領は。
無茶苦茶というものです。


そう言えるのはどうしてでしょう。
公務員数を50万人減らすなんて、可能とはなりません。その大半は、地方自治体の公務員ですよ(編注: 国家ではなく地域圏と市町村に所属する)。マリーヌ・ル・ペンの政治綱領は、語るだけ無駄です。メランションのも同じで、国家支出の面でやってられません。そして重要なポイントとしては、他の候補者たちは、みな対立しているのです。当選すれば、互いに激しい対立を作ることになる。マクロンだけが、国家の合意をもたらす条件を作り出すことができるのです。しかし、合意のない改革なぞ、この国にはあり得ません。革命になりかねない!この国の停滞を起こさずに改革できると信じられるのは、彼だけです。


それは、左翼と右翼の対立を超えた理性のフランスですか。
左翼-右翼の二大政党制がなければ民主主義は機能し得ないはずです。現在の状況が招くものは、二大政党制か混沌的状況でしょう。そしてそれにもかかわらず、私はエマヌエル・マクロンの試みには好意的に考えています。それは、今がフランスの歴史にとって特異な時期だからです。左翼は、自らがやらなければならなかったことをやらず、右翼は自らがやらなければならなかったことをやらなかった。これは緊急かつ不可避な例外的状況というものですよ。


そこで、もしも選出されたエマヌエル・マクロンがうまくいかなかったら、それは極右になるのですか。混沌的状況になるのですか。
極右か極左か、しかし確かに極端なものになるでしょう。私たちは実際にすべてのことを試みました。動きが悪いサルコジの右翼、左翼とオランドもぐだぐだで、あなたが今言った仮説のようになっても、そこで合意は効力を持たないでしょう。しかし今日からは、メランションとルペンによる第2回投票の可能性も除外しません。(*本稿は4月21日の公開)


マクロンは変革への欲求を体現するものとなるでしょう。しかし、バイルからヴァルスに至る彼の支持者たちは、この古い政界の成員なのです。そして彼に対抗する人たちは、マクロンがどういった点で新しくないかを強調するために、あなたの名前を前面に出しています...
そして、それをポジティブだと認める人たちもいます。彼が私の助手であったことは確かなのです。私はそれを誇りに思うのです。私は彼がフランソワ・オランドの顧問になるよう、彼に会わせました。そして、私たちは良い友人でもありました。昨日もまた話をしています。私たちはかなり親密です。私は今は彼の組織系統図には記載されておらず、今回の選挙戦には私の視点を示す以外には、介入も考えていません。昨年の夏は、私は彼にとても腹を立てていて、まず個人的には彼にそのことを伝えましたが、そこから公的には、自分にはまだまだヒマがあるぞと伝えています。


今回のフランスの選挙がフランスにとって影響力が大きいなら、またヨーロッパにとっても大きな問題点なのでしょうか。国際的な情勢が機能してくるのでしょうか。
国際的な状況は劇的です。これについては、私はすべての人々に、国民と同様に候補者たちにも繰り返し伝えています。忘れてはならないのは、歴史は悲劇的です。ぞっとするような襲撃が、10分から6ヶ月の間にどこかで起こるのです。今日に至るまでに、襲撃は素人とかイカれた人物によって行われるようになりました。


テロリズムは気がかりです。しかし地政政治学的な格差はさほど懸念されていません。フランスはどのような役割を果たせばいいのでしょう。
2017年は特に危険な年になります。さしあたって3人の実力者が権力の座にあり、それはトランプ、プーチン、シー・ジンピンですね。1950年に始まるヨーロッパの歴史において初めて、この3名の指導者がEUを解体しようと考えています。彼らは、ヨーロッパは敵だ、もしくは少なくとも競合するものだと考えています。そして、フランスとドイツは、大統領選挙の年なのです。つまりヨーロッパが無防備だということです。私たちを叩きのめすなら、今だと。


彼らはなぜそんなことをしたりするのですか。
私が彼らだったら、この年にユーロを急落させるためなら何でもするでしょう。フランスとドイツが軌道に戻ってしまえば、次のステップは防衛と安全保障のヨーロッパになります。これは理論的にすでに存在している、ヨーロッパの主要なプロジェクトなのです。これは、1.5兆ユーロ規模のユーロ債を財源とする大きな措置です。これは可能です。フランスとドイツはともにこれを成し遂げるでしょう、もしも理性的な方法でフランスが統治されればですが。そして、もしもフィヨンがこれをやればですが。


危機からのポジティブな脱却はある。現在の攻撃によってヨーロッパの持つ実力が明らかになりうるのでしょうか。
私たちは脅威に向かわない限り強くならないのです。ヨーロッパは、一つの脅威の元に形づくられました。それはソヴィエトの侵攻・アメリカの撤退です。再びこれらの脅威が訪れれば、ヨーロッパはもう一度構築されなければないのです。しかしそのためには、ヨーロッパの頭脳がなければなりません。こういった危険が実際に揃ってしまった時期を、完全に乗り切らなければならないのです。


この文脈では、グランド・ブルターニュEU離脱は、EU純化する機会となりうるのでしょうか。
グランド・ブルターニュの離脱には、まったくいい気がしません。イギリス人たちは私たちと一緒ではなかったのか、私はユダヤ人でもありよくわかりません。私はイギリス人に敬意を持っています。彼らは悲劇的な間違いをしたのだと思います。優れた歴史家、Barbara Tuchman(バーバラ・タックマン)はLa marche folle de l'histoire(愚行の歴史)という本を書いています。そこで彼女は、トロイの木馬に始まる国家による自殺行為の事例をまとめています。私たちは一つの国が自殺するのを見ているのですよ。こんなことはもう見られません。Brexitなんてありえなかったので。
(24 heures サイト 2017年4月21日)