日本、民主主義の活気のなさ

テロリズム、民衆の急進化、連帯の決裂、指導的エリートに対する不信... このような実存的な(?:existentielle) 危機を経験しつつあるほかの民主主義国家の破綻に照らし合わせれば、日本はまるで安泰な避難所のようである。暴力はなく、社会は安定し、安定した多数派。しかし日本がはらんでいる病は本質的に異なるもので、それは「優柔不断」のキャリアーであって、いつ発症するか分からないものである。7月10日の参議院議員選挙は、政治での不活発さを示すものである。連立政権は、世論調査で国民の多数派により拒否されている憲法改定に対して、首相アベ・シンゾーがそのプロセスに取り掛かることが可能となる衆参両院における2/3の議席数、これを1945年の敗戦以来初めて掌握した。

歴史的にも最低水準の一つとなった53.5%の投票率であれば、まぎれもないアベ氏の勝利だったというわけではない。低い投票率は、世論を代表しているらしい諸政党を世論の大部分が拒絶していることを示しており、これが自民党、つまり棄権率が高ければ大政党に有利となるような選挙システムに有利に働いた。棄権と野党票を考慮した場合は、アベ氏は有権者の25%の支持で支配している。

今回の参院選の結果は、日本の民主主義の実状を反映している。(人口統計が推移した結果)高齢化した有権者、ガチの保守主義者。若年者層は将来への懸念から保守陣営に投票するか、年長者よりもさらに棄権しており、もう一方の有権者である不満をもつ人々は、自分たちの希望を政治的に代弁する候補者が見つからず、投票所には行かなかった。これは、首相がそれを目標として声高に語っている政府を増強することで、世論の大多数が反対する憲法改定になるという、逆説的な状況となような現象の組み合わせである。


ダミーの(en trompe-l'oeil) 選挙運動
このパラドクスは複数の要因からなる。まず、自民党は、選挙戦を首相の経済政策であるアベノミツクスに集束するために、憲法改定の問題を回避した。この戦略の効果は絶大で、前回までの2つの選挙では、アベノミツクスはほかの全ての問題を不可視化させている。そしてひとたび勝利が得られるや、政府は日本軍の海外派兵を禁じた憲法の条文解釈を変え、論争となっていたそれを可能とする安全保障法案を即座に成立させた。「自民党有権者にその真の意図を欺くのはこれで3回目だ」と政治学者ナガノ・コウイチは主張するが、彼にとっては「日本の軍事的役割について人々が考える世論がいかなるものであろうと、アベ政権のやり方は反民主主義的なのである」。

自らの政権担当期間である3年間で、敗戦の歴史のページをめくり、憲法で禁じられた参戦権を含めて日本の完全な主権を取りもろす、という使命を自らに課したアベ氏は、たとえ世論調査が野党の物足りない(?: leger) 弱体化を示していても、世論を説得などしなかった。そして着実に、彼が決めたこの道を、前へ進む。7月10日の勝利を背景として、基本法の改定を取り仕切る規定をかいくぐるべく、憲法改定に関する審議を秋にも国会で始めると発表した。

このダミーの選挙運動戦術に加えて、有権者には選択肢がなかった。野党は、憲法改定のリスクについてキャンペーンを張ったが、その警告にはほとんど耳を傾けてもらえなかった。2009年から2012年にかけて、民主党が政権にあった当時のあまりにもあんまりだった経験からというもの、この野党第一党は信頼を失っている。日本人はアベノミツクスに欺されてはいない。それは牛の腸でできた風船(baudruche)のようにしぼんでいる。今回の選挙後に行われたキョードー通信社の調査によれば、調査に応じた56%の人が、アベノミツクスには価値がないと考えている。低い失業率が非正規雇用を隠蔽し、不安定さと社会的格差はますます増大している。


動揺
中国の地域覇権への野望がもたらしている強迫神経症的な脅威、ヨーロッパの分裂、アメリカでの人種問題による暴力やテロリストによる戦闘行為。有権者には信頼できる政権交代という選択肢がないうえに、このような社会の変化によって引き起こされた動揺が加わる。投票所に行った日本人は、安定性に票を投じたのだ。現実主義、もしくは躊躇も含めた内向的な後退であり、当然の結果として中国や北朝鮮との緊張の高まりをともなう、自民党の今回の選挙戦の勝利によって、勢いづいたウヨクの増長である。

日本には、フランスにおける国民戦線のような政治的意味合いをもつ極右政党はない。右派は自民党内に取り込まれており、圧力団体の機能を介して政権に作用している。その中で最も重要なものが、国会議員の40%が参加する日本会議で、そこには野党・民主党の議員もいる。政府閣僚の大半やアベ氏自身も、これに所属している。この組織は、敗戦から始まった諸改革(平和憲法を含む)によって国威が損なわれたと考えており、国威の復興のために活動するとして、自虐史観を非難し、道徳と愛国心を強調した教育を奨励している。メディアにおいても次第に存在感を増している日本会議は、さらに弱体化する野党を気にする必要がほとんどない、そんなアベ政権の意思決定に対して、極東地域の緊張を悪化させるリスクを冒したとしても、さらに働きかけていくであろう。
(Le Monde紙 2016年7月20日)