とはいえフランス国民は左翼(gauche)なのである。

ジャック・アタリとの会話」
とはいえフランス国民は左翼(gauche)なのである。


...しかしそれを知りたくないのです。
失業者への職業訓練EU民主化やフランス語の習得。首脳たちや政治評論家のコメントは、そのどれもが専門家を気取りつつ、フランスは右傾化し、これからは自由主義イデオロギーがこの国を左右すると解説しています。そして、つまり左翼は死んだのだと断言しようとする人までいます。確かに最近の選挙に対する調査は、次のようなことを明らかにしています。大多数の有権者は右翼に、そして極右に投票することを決断しています。実際には、これはすべて錯覚なのです。フランスはイデオロギー的に、未だかつてないほどに左翼なのです。そして、有権者が右翼やポピュリストに身を寄せるのは、政府内にいる左翼が破綻しているからなのです。だから、右翼やポピュリストにいったん権力が託されるや、左翼流の解決法が求められるはずです。

実際に、この国は感覚的にも現実的にも根本的な危機に直面しており、それはエリート層がその信頼を失い、富める者たちはますます貪欲となり、貧しい人々は崖っぷちに追われ、中産階級は自分とその子供たちの生活水準を脅かされてますます不安となることとして表面化しています。そして全般的な治安の悪化です。

このような危機に直面した際、フランス人が優先するもの、要求するものは明らかに左翼的なもので、それはつまり雇用、職業訓練、宗教的中立、平等、社会構造の流動性、不平等・腐敗・差別待遇との闘いなどを対象としています。フランス人は連帯も求めて、納税者である自分たちのために減税を要求する場合には、自分たちがその支出を負担しているはずのサービスの低下を良しとしません。そのうえ、治安と秩序に対する要求というものは決して右翼特有のものではないし、右翼の場合には国家の権能の大幅な強化を前提としているでしょう。結局、現在の危機はおそらく長引くと思われるのですが、これにおけるフランス人の反応は、ごく最近のアルストム社の状況やカレーの移民、もしくはテロリストの脅威に対する反応からわかるように、かつてなかったほどに国家に目を向け頼ることであって、それは市場じゃありません。

フランス人が求める左翼とは、スターリン主義とか、官僚主義もしくは保護貿易主義とはなんの関係もありません。ハンガリーの「Démocrature (*民主主義を偽装した独裁制)」や北朝鮮独裁制と混同されるようなことも全くありません。いちばん若い世代が育まれてきたような新しい科学技術の影響も受けながら、左翼には、未来の世代に対してさらなる分配、協力、無償、利他主義と責任を約束する義務があります。そしてそれは、ヨーロッパのどこかで政治を復活させるための、そのどんな原動力の中にも出現してくるものと全く同じものです。

したがって、もしもフランス国民が、国民戦線や「共和派」の指導者がもたらすポピュリズムの方向にズレて行くのなら、それは市場というイデオロギーによって左翼がいいように動揺させられたからであり、また民主主義のイデオロギーには左翼は敢えて反抗しないからであって、つまり左翼は、自由主義の政策を推奨し適用しているからなのです。右翼はといえば、市場が唯一の答えとはなりえないことは自ら解っていて、また利己主義と利他主義の間にある区別(?: distinction)は、これまでとは違うと考えているのです。

現在の多数派はもう一度、敢えて本来の姿となるべき時なのです。すなわち、市場ばかりでろくに民主主義もないような現状に対する左翼の分析、左翼の戦略(相互扶助的で、現代的で、開かれた、国際的な、利他的な、国家ととりわけ次世代の利益のための戦略)、そして左翼の方針を提示すべき時なのです。

それは、不安定な境遇に対する戦いを深めていくこと、学校の強化、失業者への職業訓練、国家の自由と価値、その中でも友愛と宗教的中立にはもっとも価値があるのですが、それを守るために国家を総動員することを強調していくことが必要なのです。

j@attali.com

(L'Express誌 BLOG, 2016年9月26日)