日本を困惑させているこの事件

日本を困惑させているこの事件


首相とも親密な、ある地位の高いジャーナリストに対する強姦罪の捜査が中止となって、西洋社会は #MeToo 運動で大きく揺らいでいるというのに、ニッポンではセクシャル・ハラスメントを取り上げることがいまだにタブーだということが明るみに出た。


2015年6月8日、東京成田空港国際線ターミナルに、タカナワ警察署の警察官たちが待ち構えていた。彼らは逮捕状を手に、容疑者を手こずらずに逃さぬよう到着ロビーに配備を広げていた。それは誰もが知る、テレビキャストの常連だった。

アメリカからの便がまさに着陸した。日本の大手テレビネットワーク TBSのワシントン支局長 ヤマグシ・ノリユキは、日本ではアベ・シンゾー首相と親密なことで知られており、彼はアベを賞賛するいくつかの著作を捧げている。その彼が、これから強姦(viol)の起訴のために呼び止められる。

この件の担当刑事の電話が突然鳴る。上司である。その場で彼は捜査を外され、逮捕は中止になったと知らされた。この命令は、警視庁のナカムラ・イタル刑事部長が下したものである。内閣官房長官と親しいこの人物は、とても手際よく、捜査をすぐに自分の直接監督下に回すことにした。


「その時のことはとてもよく覚えています」とイトー・シオリは語る。ヤマグシ・ノリユキを告訴したのは彼女で、この時のことをその長い記録に書いていた。「すぐに刑事が電話をかけてきて、自分たちにできることは何もないと言いました」と彼女は思い出す。「ドアが開き、ヤマグシは彼らの前を通り過ぎていきました。こんなに絶望的になったことは、私はありません」とこの28歳の若い女性は語る。それから2年がたち、西洋文明が #MeToo の運動によって大きく揺らぐ今、彼女はこの訴訟を受理させようとすることで、性的侵害に対するタブーをニッポンに突きつけている。


「インシデント」
人口1億2700万人の日本は、公式には地球上で最も安全な国の一つである。2016年には、警察にきちんと通報された強姦は989件、性的侵害は6,188件「だけ」である。参考までにフランスでは、人口6700万人に対して昨年の強姦の通報は15,848件となっている。しかし、専門家たちは、これが警察沙汰となることが稀なのだと指摘しており、この件についてはデータを並べて比べることは微妙である。ニッポン当局そのものも、強姦の95%は公に告発されていないだろうと考えている。

シオリはこれを「インシデント」と語っていて、その「インシデント」は、2015年4月3日の金曜日に起こった。その頃ロイター東京支局の研修生であった彼女は、ヤマグシ・ノリユキとの仕事がらみの会食のため恵比寿のレストランに赴いた。公的行事で何度かすれ違ったことがあり、その後彼女はTBSのワシントン支局での雇用の口を手に入れたいと考える。「彼は私に、アメリカでの就労VISAを取る手続きについて話をしたいと言っていたのです」とのちに彼女は説明する。

彼女は遅刻し、ヤマグシはすでに飲み食いを始めていた。二人は男が予約していた寿司屋に移動する。彼女はビールと少量の酒を飲む。「1時間は経ったでしょうか、頭がフラフラしたので、私はトイレに行きました。洗面台の上に頭を載せたことは覚えています。そしてそこからは何も。」

知らないホテルで彼女が目覚めたのは、朝の5時頃だった。腹に強い痛み。あの男が、裸で、彼女の上にいた。彼女は男を押し返し、パニックになりながら浴室に逃げ込む。「これが悪夢の始まりです」とシオリは小さな声で言う。こういう悲劇が個人的な領域に押し込められているようなニッポンでは極めて稀なことだが、彼女はメディアの前で素顔でその胸中を語ることを受け入れた。

耐えがたいやりとりをした後、男は彼女が帰宅することを受け入れる。それ以来、彼は二人の性的交渉は合意により成立したものだと確信している。この毎日新聞のジャーナリストは、「法に反するようなことは何もしていない」と説明しており、のちに他の雑誌でも、彼らの接触の際に女性がしたたかに酔っていたことを認めていながらも、同じように彼はイトー・シオリの意思に反するようなことは何もしていないとしている。この男は、彼女は自分が酒に強いと少し過信していたんじゃないのかと言う。


無能な法システム
シオリにとっては、これは強姦である。しかし、彼女にはどうやって対応すれば良いのかわからない。その日のうちに彼女は、経口避妊薬を処方してもらうために近くの産婦人科医の診察を受けに行っている。「何時に過ちを犯しましたか」産婦人科医は彼女と目を合わせることなく機械のように言った。そしてピルを貰いに行くようにと厳かに言い渡された、外に。性的暴力の被害者協会に電話をしても、それ以上の同情はなかった。面談の予約を取るようにと言われただけだった。ボロボロになり、彼女にはもう勇気がなかった。

その5日後、彼女は警察署に行くことを決意することになる。「でも警官たちも、私に告訴させたくなかったのです。彼らは、この手の状況はよくくるけど、捜査を進めていくのが難しいのだと説明しました。自分のジャーナリストとしてのキャリアをダメにし、人生も無茶苦茶になるよ」と、彼女は嫌気がさしながら語る。その時私は、ニッポンの法システムや社会では、性的暴力の被害者には対応できないのだと気づきました。」検察官たちは数も多くはなく、使える手段もわずかであるため、疑いの余地が残らない事例ばかりを立件しているような日本の司法制度では、それは微妙なテーマなのである。これによって、この国では有罪となる確率が99%となっているのである。


捜査が始まる
しかし、何度もシオリは依頼する。容疑者がややこしい有名人ではありながら、彼女はついにタカナワ警察署の捜査官たちに捜査を開始するよう説得した。少なくとも当日の夜の彼の行跡を再現する必要がある。捜査官たちは、彼女が23時頃に異常な状態でレストランを後にしていたことを確認した。2015年6月に彼らを乗せたタクシーの運転手を突き止めたのだ。この人物は、彼女が何度も地下鉄の駅で降ろしてほしいと言っているのに、ヤマグシ・ノリユキが自分のホテルに連れて行ったことを確認した。このホテルの防犯カメラの映像が、この男がタクシーから降りて彼女を抱き支えていたことを証明する。そして、廊下でも自分の部屋まで。

これからこの件は重要視され、彼らは彼女の下着に付着したDNAサンプルを採取し、それがこのジャーナリストとの性的交渉を確証することとなる。警官たちは、彼女にその光景を何度も詳細に語るよう、また人間の背丈のゴム人形を使って今回の強姦を演じるようにとも要求した。本物の警官と状況を再現すればトラウマになりかねないので、それを避けるべくこのゴム人形が今や各警察署に配備されているのだ。彼女は再び苦悶を味わったが、それに耐えた。そして、この影響力のあるジャーナリストの逮捕が決定された。そして、それは中止とされた。


世論を動かす
この新たな展開から数ヶ月間は、この事例に動きはなかった。タカナワ警察署の管轄外となり、ナカムラ・イタルの掌握する東京警視庁捜査一課の管轄とされてから、イトー・シオリは、捜査を指揮した検察官と2回会っている。ヤマグシ・ノリユキ サイドでは、事情聴取を1回受けることになる。すべての任務が2016年7月に最終的に断念されることになる。9月に検察審査会は、その論理的な動機を告げることなく、有責事由を丸ごと却下した。

最終的な申し立てにおいて、シオリはこのジャーナリストに対して民事訴訟を起こした。そして世論を動かすべく、先日彼女は一冊の本「Black Box」を出版し、そこで自分の事例を介して、性的侵害に対する日本社会の危機的な状況を喚起した。彼女は「私が語り始めることで、少しは現実を変えることになるでしょう」と打ち明ける。


セクシャルハラスメントを取り上げることのタブー
この国では、性的な問題そのものはタブーではない。主要な都市には、夜になればネオンに輝く歓楽街がある。昼間も、トーキョーの街はもっぱら男性的な性衝動でギタギタ(infusée)である。地下鉄の車内には、若い女の子や中学生のスカートをはいたプリプリの(pulpeuses)ロリータたちがあれやこれやと製品をお奨めする写真入りの広告が一面に貼られている。24時間営業の小型スーパーマーケット「コンビニ」では、淫らなサラリーメンの幻想を掻き立てる雑誌ばかりが並んだコーナーに自由に行けるようになっている。

権力のあらゆる階層が男性によって占められ、男性原理によって男性の優位性が固定され、女性はそれに従うものだとみなされているこの世界では、その代わりにセクシャルハラスメント、特に職場でのセクハラと性的侵害が討論されることはずっと少ない。シオリはその戦いの中で、そもそも日本の女性からはっきりとした支持を受けたことがないと指摘する。公開討論でも、むしろ彼女たちは、男と一杯呑みに出かけたんでしょ、と彼女を非難する。


お友達優遇(népotisme)の疑い
NHKの調査によれば、質問に応じた人々の11%が、今回の行為は性的合意だったと受け取っているのです」と彼女は強調する。女性たちは、最初の記者会見の際の彼女の身なりも批判した。彼女が着ていた黒いブラウスのトップボタンが開いていたのだ。インターネット利用者たちは、「それに彼女は泣いてもいなかった」と苛立つ。最も厳しい人々は、非常に国家主義的な立場をとることで知られるこのジャーナリストや、その彼が告白をしばしば記録してきた保守派の首相アベ・シンゾーに、嘘つき女が間接的に恥をかかせようとしているのだとして彼女を非難する。

現在首相は、他の複数の件でお友達を優遇したとの疑惑をまさに追及されている最中であり、だからこの件が明るみに出たのだと彼らは指摘する。アベ・シンゾーは、ある国家主義的な学校に自分の妻の仲介によって寄付を行い、もしくは獣医学部を1ヶ所新設するにあたって、昔からの自分のお友達に有利となるよう行政判断に干渉したとして、議会で名指しで非難されている。


野党の覚醒
この針の筵のような件に対して長い間身動きすることもできなかった野党は、当然のことながらこれを把握したばかりである。先週彼らは議会で、今回の逮捕過程の背後にある機能障害を暴くべく、一連の尋問に取り掛かった。逮捕までの過程を判断した裁判官が、なぜ今回のすべての責務を断念したのか、なぜ警察の責任者が、自らこのジャーナリストの逮捕を突然中止したのかを理解しようとしている。

アベ・シンゾーと強く敵対しているコイケ・ユリコ東京都知事の組織、キボー党のユノキ・ミシヨシ議員は、「今回の件が一度国制のトップに委ねられてから担当部署のトップによって却下されたのは、ヤマグシ氏がアベ首相と親密な関係にあったからなのか」と警察庁の責任者に尋ねた。

この警察官は、通常の訴訟手続きが遵守されていたと断言した。「今のところ、本件はまだ政治的な問題となりうる圏内には入ってきていません。しかし、もしも民事法廷が原告が正しいとするならば、事態は変わりうるでしょう」とテンプル大学政治学者マイケル・ジュジェは説明する。「もしくは、もしも政治が根本的に変わって、やっと女性たちの言葉が信じてもらえるようにでもなれば。」
(Les Échos誌サイト 2017年11月29日)